第19回奈良県医学検査学会

血液型および食事が小腸型ALPに及ぼす影響について

○高谷恒範,波賀義正,増谷喬之,岡本康幸
(奈良医大 中央臨床検査部)

[目的]
アルカリ性フォスファターゼ(EC:3.1.3.1,以下ALP)は,生体に広く分布し細胞膜に局在する酵素で,種々の病態で血清中活性の上昇が観察される.したがって血清ALPの測定は,上昇を示す疾患,特に胆汁うっ滞や骨疾患などの診断に有用とされている.しかし,食後や血液型がBまたはOの分泌型の場合に小腸型ALPが血中に出現しやすいことが知られており,疾病によるALPの上昇と区別し難い場合がある.
また,小腸型variantのALPは電気泳動上,骨型ALPと同じ位置に泳動されることが指摘されており,アイソザイムの判読時にも注意が必要である.今回,われわれは,血液型および食事が小腸型ALPの変動に及ぼす影響について検討を行い,データ判読時の注意点について若干の知見を得たので報告する.

[方法]
1)試料:
15例のボランティア健常者対象の血清を試料とした.対象の血液型は,A型5例,B型4例,O型5例,AB型1例で,被検者は前日夜8時以降絶食とし,翌朝10時に採血し,そして,昼食後1,3および6時間にそれぞれ採血した.採血後1時間以内に血清を分離し,当日中に総ALP活性およびALPアイソザイム検査に供した.

2)ALPアイソザイム:
高速電気泳動法(REP:ヘレナ杜製)を用い,アガロース膜を支持体として電気泳動により分離された血清ALPをホルマザン色素(NTB:ニトロテトラゾリウムプルー)により発色,650nmでデンシトメトリー解析した.試料は50μl使用し,抗胎盤抗体処理では,血清100μlと抗胎盤抗体20μl(ベックマンコールター杜製)を混合後の50μlを使用し,ノイラミダーゼ処理では,血清100μlとノイラミダーゼ20μl(Clostridium菌由来:ベックマンコールター社製)を混合後37℃2時間インキュベートした後の50μlを使用した.

[結果]
1)血液型のBおよびO型においては,空腹時でも小腸型およびvariant小腸型ALPが認められる場合が多かった.一方,A型,B型及びAB型では,空腹時に小腸型あるいはvariant小腸型ALPが検出されることはなかった.

2)いずれの血液型でも,食後では3-6時間をピークとする小腸型およびVariant小腸型ALPの出現が高率に認められた.この場合variant小腸型のほうが出現しやすい傾向にあった.これらのALPの血中からの消失時間には個人差があり,9時間後でも小腸型およびvariant小腸型ALPが認められる例があった.

[考察]
以上の成績から,ALPアイソザイムパターンは,血液型に関わらず食事による影響を受けることが明らかとなり,ALPの検査には空腹時採血が必要であると考えられた.また,空腹時であっても血液型がBまたはO型の例ではvariant小腸型ALPが骨型ALPに重なって出現し骨型ALPの増加のように見える場合があり,このような場合には抗胎盤抗体処理などによる確認が必要と考えられた.血液型が不明の場合には,同時に小腸型ALPが存在するかどうかが参考になると考えられる.

[謝辞]
実験にご協力いただいた奈良医大中検職員の有志に感謝いたします.

連絡先:奈良医大 中検 0744-22-3051(内線3236)

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