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最近の奈臨技勉強会では,生体部門や形態部門などで画像,波形および細胞の形態などの基礎的な勉強会が盛んに行われている.そこで臨床化学分野でも一昨年から基礎的なことを中心とした勉強会を開くことを始めた.昨年はその中で反応タイムコースにおける測光ポイントを中心とした勉強会を開いた.その中で気付いたことを要約し報告する.

.天理よろづ相談所病院 臨床病理部 猪田 猛久

【タイムコース】

 最近の自動分析装置は反応タイムコースがみられる装置が一般化されている.このタイムコースは色々な有益な情報を提供してくれる.最も我々が見るきっかけの多いのは異常値が出た時だと思われる.しかしそれだけでなくキャリブレーション異常の場合や分析装置の異常時にも異常個所の推定,管理試料の許容範囲から外れた時および検討時などの反応の正しさや逆に反応の異常などの証明にも利用できる場合があり,反応タイムコースはこういった色々な有益な情報を提供してくれる.測光ポイントは大半がメーカー指定の測光ポイントを利用しているが,その測光ポイントの意味を理解するために反応タイムコースにおいて測光ポイントが変わるとどう値が変わるのか勉強した.その勉強会で意外と知られていないものや再発見したものについて紹介したい.

【方法】

当検査室の日立7600形自動分析装置における反応タイムコースを用いた.反応タイムコースをグラフ表記し各検体の反応を確認するとともに測光ポイントを変化させ,測定値と測光ポイントとの比例性,ラグタイムおよび測定レンジについて調べた.なお測光ポイントの変化については2ポイント分析では1つは測光開始ポイントを第一試薬添加後の最終ポイントに固定し,第二試薬添加後の測光ポイントを変化させるものと,第二試薬添加後の測光ポイントを最終に固定し,第一試薬添加後の測光開始ポイントを変化させた2通りを行った.レート分析は測光時間を1分に固定し第二試薬添加後の測光ポイントを変えて行った.

【分析装置および測定項目】

分析装置:日立7600形自動分析装置

項目:アルブミン,総蛋白,グルコース,UA,BUN ,Ca,P,Mg,CHO,TG,HDL-CHO, CRP,AST,ALT,LD,ALP,γ-GTP,Amy,CK,の20項目

【結果】

1)NADH(NAD)吸光度の減少

グルコース,AST,ALT,LD,CKおよびBUNの項目では一旦吸光度が下がりそれから安定した.

2)UAのタイムコース

UAのタイムコースでは第二試薬添加後の吸光度が必ず下がる現象がみられた.


3)Ca(OCPC法)の漸増タイムコース

CaのOCPC法はキレート反応のため瞬時に反応が終了する.従って測光ポイントは第二試薬分注後早目に測光することが望ましい.しかしOCPC添加後,Caとのキレート反応とは異なるゆっくりとした吸光度の増加がみられた.

4)総蛋白(ビウレット法)の反応速度の相違

総蛋白のビウレット法で,試料によって反応が早期(1分以内)に反応が増加するものと中期(3分前後)に反応が増加するものがみられた.


5)CRPの標準液と人血清

CRP(TIA法)は反応時間を短くすればするほど測定値が高くなった.通常第二ステップの反応は5分反応であるがこの5分を短い時間に変更するとたとえ標準液で校正して測定しても補正ができなかった.

【考察】

1)まずNAD(H)系の試薬の吸光度減少であるがこれは試薬メーカーに問い合わせたところNAD(H)系の特有の現象で温度変化に伴うεの変化によるもので,εは温度によって一般的に変化するとのことであった.実際ブランク反応でもこの現象が生じている.しかし340nmにおけるNADとNADHの吸光係数は大きく異なりNADとNADH含有試薬でブランクの吸光度変化が違っても1/2程度であることを考えるとそれだけで説明できるのか疑問が生じる.その他340nmで測光するCRP,P等ではこのような現象は起こらずやはりNAD(H)系の試薬の現象と考えるが不思議な現象である.

2)UAのタイムコース
UAのタイムコースでは第二試薬添加後の発色吸光度が必ず下がる現象がみられた.この現象は,ウリカーゼにはSH基があるためである.現在酵素法の最終反応に多く用いられている方法で,生成されたH2O2からPODを用いた酸化縮合反応で発色させる方法であるが,ウリカーゼに含まれるSH基は強力な還元作用を有しておりこのために発色吸光度が減少したと思われる.このSH基はウリカーゼに含まれるだけでなく,CRPなどの抗原抗体反応における非特異的反応の抑制などに利用されている.従って分析装置のトラブル等で試薬分注がうまくいかず試薬が飛び散った場合,CRPの試薬がPOD系の反応系に影響を与えデータに誤差を生じるケースがあり実際報告されている.

3)Ca(OCPC法)で漸増するタイムコースであるが,これは溶血液であった.溶血液はCaとのキレート反応とは異なるゆっくりとした吸光度の増加がみられる.従っていたずらに測光ポイントを最後に持っていき感度を稼ごうとすると溶血の影響を受けることになりやはり測光ポイントはOCPC分注後早目に測光することが望ましいと思われる.

4)総蛋白(ビウレット法)の反応速度の相違であるがこれはアルブミンとグロブリンの反応の相違である.山本の自動化での発表にもあるが,ビウレット法ではアルブミンは中期(3分前後),グロブリンは初期(1分前後)に最も反応が進む.事実グラフに示した反応の遅い試料はA/Gが1.48,速い試料は0.31であった.従って可能であればA/Gのチェックがビウレット法のタイムコースで可能となり,精度管理にも役立つこととなる.

5)CRP(TIA法)は反応時間を短くすればするほど測定値が高くなり,結局5分反応と一致する測光ポイントはなかった.つまり人血清と標準液は同じ反応性でなく,気をつけなければならないのはメーカーの保証している標準液は5分反応のみ有効でありみだりにユーザーが反応時間を変更することは保証から外れることを意味している.

アルブミンBCG法では知られていることであるが測光ポイントを後にもっていくとグロブリンの影響特にα2グロブリンの影響をうけ高値となる.今回でも炎症の強い試料では測光ポイントを後にもっていくと高くなりそのことが確認された.

また酵素法による代謝物の反応タイムコースでは反応が非常に速くほとんど1−2分で反応が終了している項目が多く見られた.これは試薬の保証期間を長くするためや何らかのアクシデント(輸送までのトラブルなど)にも対応できるように十分量の酵素が添加されていると思われる.

また2ポイント分析の測定終了ポイントを固定して測定開始時期を変えた場合(R1添加後の測光ポイントを変えた場合で,値に変化がみられるのはR1添加後の吸光度が変動していることを意味する)に測定値が変化した頻度が多くみられたのはCRP(TIA法)であった.TIA法は抗原抗体生成物質の凝集による混濁を惹起させるためポリエチレングリコールを添加させているがそれが検体によっては抗血清が添加していなくても混濁が生じているものと思われる.しかし抗体を添加する直前には吸光度は安定しておりデータに影響をおよぼしてはいない.従ってTIA法では第一試薬の反応時間では5分は必要でみだりに短くすると検体によっては混濁中の吸光度で検体ブランクをとりデータに影響を与える場合があることを認識するべきである.

UAでは第一試薬の吸光度がゆっくり減少している検体がみられた.これは初期吸光度が他に比べ高く混濁が生じてその混濁物の沈降により低下している可能性がある.幸いデータにすると0.1〜0.2mg/dlであり大きな問題になることはないと思われる.これもみだりに第一試薬の反応時間を短くするとさらに影響が大きくなることになる.

コレステロールやTGの混濁血清は第一ステップにおける吸光度は減少傾向を示した.LPLやコレステロールオキシダーゼの作用は第二試薬添加後であり,この第一ステップの現象は界面活性剤の作用により第二試薬で分解されるVLDLやカイロミクロンを界面活性剤で可溶化しておりR1とR2添加後の検体ブランクを同一にする工夫である.

レート分析で再確認できたことは第二試薬添加直後の吸光度変化を採用すると反応温度の低下や反応が最終段階までに最大速度に達していないラグタイムがあり低値を示す項目がほとんどであった.しかしγ-GTPでは第二試薬添加直後から活性が高いものが多い傾向であった.これはγ-GTPでは第二試薬の量が特に少ないわけでなく基質分解すなわちL-γグルタミル-グリシルグリシンおよび5-アミノ-2-ニトロ安息香酸の産生に反応が傾いているためと思われる.しかし第二試薬添加直後では一定の酵素反応の速度になっておらず活性値の変動が大きく不安定でもあった.

またレート分析全体にいえることであるが測光ポイントは最大反応速度が得られるポイントに設定することが必要でやみく「にするものでない.ただ知識として測光ポイントを後半に設定すると測定値が安定していること,逆に直線性が伸びない面があることを認識してほしい.今回では特にCKや吸光度の減少反応でその傾向が確認できた.

【まとめ】

反応タイムコースには様々なものがあり我々は多様な反応系を用いて測定値を報告していることが認識できた.全てのタイムコースを観察することはできないが正常なタイムコースと異常なタイムコースおよび反応の起こっている意味を少し理解できたと思える.

 

(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 猪田 猛久)

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