「滝坂の道へのいざない」

済生会中和病院   酒 井 篤 子

 私は奈良市の高畑に住んでもうすぐ19年になりますが、 この近くに“頭塔”と呼ばれる遺跡や志賀直哉旧宅、 春日大社、 大仏殿、 二月堂、 興福寺、 元興寺など世界遺産にも指定された多くの観光名所が有ります。 またハイキングの好きな方にお勧めのコースがいくつもあり、 その中で私が月に2〜3回散歩として歩いている柳生街道をご紹介します。
 市内循環 「破石町」 のバス停から東へ新道を登ると車両幅のハイキング道に続いていますが、 その手前を右に曲がると飛鳥中学校があり、 その前の道を能登川沿いを歩いていきますと柳生街道 (滝坂の道) へと続いています。 民家が途切れた辺りから鳥の声と川のせせらぎが耳に入り自然につつまれます。 ごろごろとした石ころ道をしばらく行くと妙見宮の常夜燈が両側にあり、 この辺りから石畳の道になっています。 春日山原始林の味わいと昔柳生の人々が 「奈良みち」 と呼んで牛車を引き荷物を担いで歩いた風情がしみじみと感じられます。 3年前の台風7号の後、 ずい分木が倒れて以前より太陽の光がよく差し込み明るくなった様な気がします。 しばらく登っていきますと、 “寝仏・この裏です”という木の札が立っています。 石の裏側に回ってみますと仏さまが石に刻まれているのですが、 横になっておられるので一瞬どこに彫ってあるのか分からない方もおられるようですこの仏様はどうやら上の方にあったものが落ちてきたと考えられています。 ほどなく行きますと左上方に夕日観音と呼ばれる弥勒磨崖仏が見えます。 ちょうど夕日を受けると美しく写るのでその名が付いた様です。 この近くにも2〜3の地蔵磨崖仏があります。 更に登っていきますと、 小さな滝になった上流に朝日観音といわれる弥勒磨崖仏に出会います。 何とも素朴なそのお顔を拝見していると心が落ちつきます。 そこから10分程上流へと登っていきますと、 大きな杉の木があり、 ちょっとした広場になっています。 そこには荒木又衛門が試し斬りにしたと伝えられる首が切られた様に折損している大きな地蔵さんが親愛な表情で立っています。 これが“首切り地蔵”で、 ここまでが“滝坂の道”と呼ばれます。 この広場を右手の方に登って行きますと、 “新池”があり、 池の廻りは休憩の為のイスがあちこちに設置され散策出来るようになっています。 私は主人と愛犬といつもこの池の辺りで休むのですが人が少ない時は、 いろいろな鳥がとんでいます。 春から夏にかけては特に多く、 オオルリ、 ヤマガラ、 ウグイス、 コガラ、 イカル、 コゲラなどと間近に出会うことが出来ます。 時には“ツキ・ヒー・ホシホイホイホイ”と鳴く“三光鳥”が飛来することもあり、 三脚を持って訪れる方も多い様です。
 私の散歩はここまでで、 Uターンをして帰る事が多いのですが、 新池から更に登って“地獄谷”を通って、 ”峠の茶屋”まで行くこともあります。 この地獄谷を入ってしばらく行くと“聖人窟線彫り磨崖仏”があり、 その衣の朱色は今もなお残っており昔の人の技法に驚かされます。 地獄谷から峠の茶屋までは急な登りが多くて思わず木の杖を拾おうかと思ってしまうほどです。 しかし、 登りきって柳生街道に出て峠の茶屋でよもぎ餅とお茶を頂きいっぷくすると、 しんどさも忘れてしまいます。 多くのハイカーの方は、 このあと円成寺までさらに歩きそこからバスに乗って奈良へ戻られる方が多いようです。 この道は、 出来れば人が少ない時にゆっくりと味わって頂きたいものです。