院内感染対策講習会

平成13年度院内感染対策講習会(臨床検査技師対象)参加報告

県立三室病院 内池 敬男

 秋真っ盛りの平成13年10月6日〜8日の3日間、京都大学医学部で厚生労働省および日本感染症学会主催で平成13年度院内感染対策講習会が開かれました。この講習会は毎年各病院で院内感染対策に携わる技師を対象として全国より推薦された者を対象として行われるものです。今回、奈臨技の推薦を得てこの講習会に参加させていただきましたのでこの紙面をお借りして報告させていただきます。
 講習会は3日間で講義10単位、実習3単位でのきめ細かなスケジュールで実にハードであり、しかも内容は実践的かつ多方面に渡るものでした。
 また、今年は狂牛病、炭疽菌さわぎがあり、微生物検査を担当する者には大変な年でしたが、特に講習会の頃は狂牛病問題が社会問題となった頃で、クロイツヤコブ病の原因となる異常蛋白であるプリオンの感染対策の難しさが講習会のなかで話題となっていました。
 この講習会が技師を対象として行われるようになって今回が3回目であり、その詳細については、平成11年度は天理よろづ相談所病院の木田さんが、平成12年度は県立奈良病院の宗川さんが会誌「まほろば」に書かれておられますのでご参照下さい。
 そこで、今回は京都大学医学研究科の一山 智先生が講義された「結核の病院内感染対策」について書かせていただくことにします。

【結核の病院内感染対策】

1、概要
 日本で一年間に発生する患者数は先進諸国の中で最も多く発展途上国なみであり、その中でも大阪が一番多い。また、大阪を中心として同心円状に患者発生が広がっており、我が奈良県も結核の汚染地区となっている。

2、感染対策の問題点
結核感染は空気感染であり、結核患者の咳や痰より空気中に漂った飛沫粒子が長く空中を漂い、その飛沫粒子を吸引した非感染者に感染を広げる。飛沫粒子は直径が小さく5μ以下であり一旦吸引すると肺の奥まで届き、肺の深部で感染が成立する。
 さらに結核菌は発育が遅く、院内感染が発見された時にはすでに看護婦や医師など多くのスタッフや患者さんに感染が広がっていて、最悪の場合病棟閉鎖をしなければならなくなるケースもある。

3、感染患者対策
 結核感染予防は基本的には空気感染予防策を行うことであり、空気予防策の対象となるのは結核の他に水痘、麻疹などがある。
 結核患者は原則として個室に収容し、特に塗抹検査陽性の排菌期間中は厳重にする。個室に収容できない場合は、同じ結核患者を1つの病室に集めて収容してもよい。(コホーティング)
コホート化とは感染患者をグループとしてまとめ、同じ看護スタッフがケアにあたることで領域全体を周囲から区別する方法である。
 空気予防策には空調設備の完備は不可欠であり、患者を収容する病室は周囲より陰圧とし、すべての供給空気は新鮮外気とする全外気方式が望ましい。(CDCでは細かな基準が定められている。)
また、この空調設備は病室のみならず、気管支鏡検査室、肺機能検査室にも設置されるのが望ましい。

4、患者ケアについて
 活動期で排菌期間中の肺結核患者は室外への移動は禁止される。やむを得ず病室外へ出る場合は必ずサージカルマスクを着用し、咳時は飛沫を発生させないためタオル等で口を覆うよう指導する。患者家族の入室も制限し、乳幼児や易感染状態の人は入室厳禁である。
 日常品や医療器具等の接触によって感染が成立するという証拠はないため、標準予防策を守る限り手袋やガウンテクニックは必要ない。食器や残飯、ゴミ、リネン類の処理も通常でよい。部屋に清掃やカーテンの洗濯も特に配慮する必要はない。

5、医療従事者への対応
 医療従事者、家族が隔離室に入る時はタイプN95微粒子用マスクを着用する。このマスクは0.1〜0.3μmの微粒子を95%以上除去でき、通常数週間〜数ヶ月有効で機能する限り再使用してよい。
 ツベルクリン反応は日本ではBCG接種率が高いため結核感染とBCG陽性を鑑別できない。また、結核に対するBCG接種も有効性が不明であるため、隔離病室に入室する際はすべての人がN95マスクを着用するようにする。
 スリッパの履き替え、手袋、ガウン、ゴーグルの着用は必要ないし入口の粘着マットも不要である。

6、検査室の安全対策
 検査室においても結核菌による空気感染の危険が高いが、我が国では公的な勧告や規制がなく個々の検査室の判断に任されている。
 アメリカでは結核菌検査は微笑飛沫核の吸引を防止するためレベル2〜3の安全基準下で行うべきであると勧告されており、空調も独立し常に陰圧で一定流れを保つように換気されている。
 検査技師が感染する危険が高いのはエアロゾルを発生させる操作であり、検体から塗抹標本を作成したり、ミキシング、ピペッティング操作、遠心集菌などである。このような操作はクラスUの安全キャビネット内で行うことは必須であり、安全装置付の遠心器も必要である。このような設備が無い検査室では原則的には結核菌を扱う検査を行うべきではなく、設備の整った施設に検査を委託するのが望ましい。
 事故時には職員の安全を第一に迅速に対応しなけらばならない。安全キャビネット内での結核菌汚染事故ではただちにファンを起動させエアロゾルの拡散を防止しフェノール系や塩素系消毒薬で消毒する。さらにUVライトでキャビネット内を照射する。
安全キャビネット外の汚染事故の場合直ちに職員を検査室外に退去し、ドアを閉め室内空調を作動させ十分換気した後に消毒操作する。しかしながら設備の整わない施設では対応に困難を極めることになる。

7、職員安全対策のためのBCG接種について
 BCG接種の有効性については、乳幼児期の重症結核症の発生予防効果がほぼ確立しているがその持続期間、成人になってからの再接種が有効かどうかは不明である。現実的には結核に感染する危険が濃厚な医療従事者や検査技師の内でツベルクリン反応が陰性のものにBCGを接種するのが望ましいと考えられるが、他に有効なワクチンがないためで、積極的に有効性を証明したものでない。

【最後に】

 以上、結核の病院内感染対策について書かせていただきました。最後までお読みいただき有難うございます。
結核1つを取り上げても我々を取り巻く医療環境の整備がいかになされていないかを痛感しました。皆様はいかがでしょうか。私の施設は大丈夫と言いきれる方は幸せです。でも、感染の不安をかかえながらも不充分は設備のもとで検査されている技師の皆様、今からでも遅くないから危ないものは「危ない!」、必要なものは「ぜひ必要です。」と声を大にして訴えていきましょう。
より質の高い検査を提供するためには自分自身の安全を確保することが必要です。そして、また患者さんの安全を確保するため細かな注意を払いましょう。めんどくさい。忙しい。という事で手洗いを怠ったり、手袋をはめるのをなまけたりすると大変な事になるかもしれませんよ。「注意1秒、ケガ一生!」?ちがったかな。