天理よろづ相談所病院 吉田 恵三子
数十年前まで、尿沈渣はその病院のドクターの指示に従って表記していて、泌尿器、腎臓外来、小児科、それぞれが求める表記で報告していた。
1991年に(尿沈渣検査法)が社団法人日本臨床衛生検査技師会より出され、それを国内の標準法とするため日本臨床検査標準協議会(JCCLS)に申請し、1995年に(JCCLS
GPl−P2)イエローブックとして発行され、ついで(尿沈渣検査法補遺)オレンジブックを追加した。
以後尿沈渣のバイブルとして利用されてきた。しかし、尿中赤血球形態に関する分類基準が確立していないなど問題が提起され、それらが盛り込まれて2000年に(尿沈渣検査法)(JCCLS
GP1ーP3)が発行された。
前回より修正、新たに付け加えられたことこれからの尿沈渣のあり方について述べてみたいとおもいます。
改正点(修正)
(1)尿中赤血球形態について表現方法と考え方を示した。
尿に赤血球が出現した時、それらの出血部を特定することは、臨床的意義が多い。腎、尿路系など、出血部位の違いによる赤血球形態の違いは重要な所見です。たとえば、下部尿路出血など(非糸球体性血尿)では、赤血球は金平糖状、円形状などの形態を示し、尿の性状のよる変化と同様に形態がほぼ均一で単調である。赤血球の大きさも大小不同を呈する時もあるがその程度は弱く、ヘモグロビン色素に富む。糸球体性腎炎などによる糸球体性血尿ではこぶ状、断片状、ねじれ状、ドーナツ状、小型など同一標本で多彩な形態を呈します。この変形赤血球を記載することは出血が糸球体性か非糸球体かを初期の時点で判断し次の検査に進むことができる。
(2)一般検査における異型細胞の考え方を明確にし、報告方法を示した。
ルーチン検査でN/C比大、奇妙な形などの細胞を目にすることがある。異型細胞にとるべきか悩む事がある。検体は初診者やフォロー中のもので形態で判断するにはデータが少なく、診察前検査の事が多く迅速に報告をしなければならない。尿沈渣検査における異型細胞は悪性細胞もしくは悪性を疑う細胞をいう。異型性は弱くても悪性の可能性を否定できないものの異型細胞とする。またそれを報告するときはコメントを付記し細胞系、異型の度合い、考えられる病態を記載し報告するとした。良性とわかる異型性を示すものでは異型細胞とするのではなく本来の細胞系(扁平、移行上皮細胞)に分類しこれにもコメントを付記する。異型性がなく細胞系が判らない判定困難な細胞については分類不能細胞に分類しこれにもコメントをつける。
(3)自動分析機器による尿中有形成分情報の位置づけを示すことである。
近年いろいろなメーカーから尿中有形成分の自動分析機器が開発販売されています。尿沈渣を染色し分析していくものから、スキャッタグラムとして表示するものまである。使い方によっては得るものは大さい、たとえば、HPF表示から、μlの定量表示にする事により、数を客観的に表わす事ができる。血尿などで、赤血球の数を記載するときも、目視だと滴下する沈渣量、染色液が影響し数が変わってくる。白血球も同様である膀胱炎などで薬剤の効果をみていきたい時は人為的な影響が少なく、より原尿に近い状態で表すことができる。また変形赤血球、均一赤血球の判断も可能である。そうなると我々検査技師としての技量が発揮でさないと思う人がいるかもしれないが、機器が最も、得意とする、定量測定、統計的に分析し表示する事をまかせ、機器が判断できない細胞を分類し診断に結びつけていく醍醐味を味わえると思います。
以上3点が新しくつけ加えられたことです。尿沈渣は分類する種類が多く、塩類や結晶などが出現したり、なかなか複雑です、沈渣の作り方、検査(鏡検)する人の力量により診断が違ったり、悪性疾患の早期発見ができなかったりします。検体量が多い施設では自動分析機器の導入で定量的に測定することも可能ですが中小の施設では目視鏡検がつづくと思います。沈渣を鏡検する技師が沈渣を愛し、こだわり、力をつけ、沈渣から得た情報に付加価値をつけ、報告していくことが新しい尿沈渣への新しい基準つくりにつながると思います。