学会参加記

56回 日本医学検査学会への道のり

奈良社会保険病院 松下 早苗

人との出会いはとても大切で、時には思いもよらない展開になることもあると思います。

学会発表の9ヶ月前のことです。勉強会帰りの電車の中で、ひょんなことから“共同研究”をやることになったのです。その時は軽い気持ちで手をあげてしまったので、研究についての詳細や最終目標の説明を改めて聞いたときには不安や後悔を感じてしまいました。でも、未知の世界に初めての一歩を踏み出すのは心地良い緊張感があったことを今でも覚えています。研究は、食中毒を引き起こす病原性大腸菌・サルモネラ・キャンピロバクターを対象としたMultiplex-PCR法を用いた内容なのですが、これまでPCRに触れた事もなければ原理もきちんと説明できないほどです。でも大丈夫です。レシピは書かれているので私は実演するだけでよいのです。それでも、予想通りの結果が出ることに驚きと面白さを感じました。

その2ヵ月後のことです。またまた、ひょんなことから“学会発表”をすることになったのです。抄録の締め切りまで1ヶ月ほどしかなかったのですが、ある程度の形になっており途中参加の共同研究であったこと、発表までに半年近くあったことでエントリーすることが決まりました。

実験を始めてから12月までの3ヶ月間は、予想以上の結果が得られ『来年も、もっと良い実験をしてデータを出していきましょう』と、その年最後の実験を終了しました。しかし、年が明けると一転、それぞれの勤務先と実験施設が違うことや各自の諸事情により、思う様な実験ができなくなったのです。“半年はある”と思っていた期限は3ヶ月を切っているのです。やらなければいけないことは、アレもコレもと欲張らず必要なデータを集めることです。当然、発表なのですからスライド・原稿も必要です。なのに、こういう時に限ってミスが起こるものです。2時間も3時間もかけて出てきたデータは、コンタミをおこして複数のバンドが出ていたり、逆にひとつもバンドが無かったり、と使えない結果です。『失敗しなければ実験ではない』と指導者は言ってくれましたが、手技的なミスはダメですね・・・焦りは禁物です。

データにスライド、と整理しながら進めていくと、自分の理解できていない部分の多さに気付きました。それと同時に緊張感も襲ってきます。元々人前で話すことは苦手なのに、どうして学会発表なんてするのだろう・・・?理解できていないということは、想定内の質問では太刀打ち出来ない・・・?!そんなことを思ってみても、その日はやってきます。2日目の第2セッションです。

ギリギリまでやった実験データをスライドに入力(差し替え)し、USBと原稿を手に不安と緊張を胸に宮崎へ。宮崎の空気・方言はのんびりとしていて、実家が九州の私にはどこか懐かしさを覚えます。が、それもつかの間、あちらこちらに東国原知事が!!ホテル内のポスターや部屋に配られたテレビ欄付の案内にも知事がいます。びっくりですが笑ってしまい、発表のことを忘れさせてくれるひと時でした。

発表だけが全てではないので、抄録をチェックして勉強すべく1日目の学会に参加しましたが、すでに緊張してしまい右から入って左から出て行く状態です。内容を聴くよりも演者に注目してしまいます。明日へのイメージトレーニングといったところでしょうか。でも、これが良かったのか直前まで緊張していましたが、マイクに向かった時にはすこし余裕があったのです。普段どおりの第一声に、ポインターも使えています。ほぼ時間内に発表を終え、あとは質疑応答です。ひとりの女性が手を上げました。『○○の××です。私からの質問は3つありまして、1つ目は・・・・・・・・・・・』恐れていたことが現実となった瞬間です。私より食中毒やPCR法について詳しい人は大勢いるのですから当然です。3名の方に5つの質問を頂きました。私には難しい質問ばかりでしたが、今後の研究にも発表にも活かしていきたいと考えています。

私が、今、奈良にいるのも人との出会いがあったからで、そこからまた出会いがあったから学会発表という思いもよらないことが起こりました。仕事でもプライベートでも、みなさんにとってたくさんの素敵な出会いがプラスの展開になったらいいな〜と思っています(飛び込む勇気を忘れずに!)