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PCR法によって診断し得たA群溶連菌膿胸の1男児例


県立奈良病院中央臨床検査部、*町立大淀病院小児科
山口直子、吉岡静香、中山章文、辻村明美、野上恵嗣*、大川元美*、河原信吾*

 Streptocococcus pyogenesは咽頭炎、狸紅熱、腎炎、リュウマチ熱等の原因として知られるグラム陽性の球菌であり、近年では劇症型(TSLS)の存在もまた問題となっている。この菌の感染は小児に多く見られるが、小児膿胸の報告は以外と少ない。今回我々は、A群溶連菌の関与が疑われながら、培養法で検出できなかった小児膿胸症例の胸水からA群溶連菌に特有な毒素の一つであるStreptococcal pyogenic exotoxinBをコードする遺伝子(以下speB)をPCR法で検出することによって診断できた症例を経験したのでこれを報告する。

症 例  7歳男児

主 訴  発熱、頚部腫脹、腹痛

既往歴  5歳時に両側扁桃腺摘出術施行

現病歴 

平成11年9月12日に39℃の発熱を認め、13日に左耳下周囲から頚郎にかけての腫脹が出現したため近医受診し、流行性耳下腺炎疑いにてNFLX内服により経過観察となった。同日より・腹痛、嘔吐、頭痛も加わり、17日に膵炎を伴う耳下腺炎疑いにて紹介入院となった。経過中、咽頭痛、咳蠍、下痢は認めなかった。


入院時現症 

身長128cm、体重28kg、脈拍120/分、呼吸数35/分、体温39.70c顔貌苦悶様。結膜貧血、黄痘を認めず。咽頭発赤を認めるも苺舌はなし。頭部リンパ節:左側は3cm大を含む数個、右側は0.5cm大2−3個触知し、圧痛を伴っていた。腋窩部、鼠径郎のリンパ節は触知せず、両耳下腺も触知しなかった。心音整で肺野ラ音は聴取せず、腹部全体に圧痛を認め、筋性防御とBlumberg徴候を軽度認めた。肝脾腫は認めなかった。頭部硬直を認めるも他の神経的所見はなく、発疹も認めなかった。

入院時検査所見並びに経過

入院時検査所見並びに経過を下に示す。白血球数21800/μl、CRP9.Omg/dl、ASO54U/ml、ASK640倍とA群溶連菌感染症の関与が疑われた。胸水のA群溶連菌迅速検査StrepAも陽性を示したが、最近培養においては胸水を始め、咽頭、便、血液、髄液のいずれも陰性であった。そこで、L型菌の存在も考慮に入れ10%シュクロースを加えた液体培地でさらに培養を続けたが、やはり陰性であった.

表1.入院時検査所見


 そこで我々はLouieらの方法1)に基づいてStreptocococcus pyogenesに特有な遺伝子とされるspeBをPCR法にて検索する方法を試みた。

1.DNAの調整;患者胸水をproteinaseKとRNaseで処理し、フェノロール/クロロホルム抽出後、エタノール沈殿したDNAをTEbufferに溶解してDNAsampleとした。
2.PCR法;PCR反応液は94℃2分1回、94℃30sec/59℃30sec/72℃30secを35cycleにて増幅を行った。
3.制限酵素処理によるPCR産物の確認;PCR産物をフェノール抽出及びェタノール沈殿で精製後、制限酵素(HinfI)で処理し、5%アガロースゲルで電気泳動を行った。

結 果
 結果はFig.1に示す様に、陽性対照としたS.pyogenes ATCC19615と同じくHinfI処理前では250bp前後に、処理後では200bp前後と50bp前後のバンドが見られた。


考 察
 この症例においては、ASO、ASKやA群溶連菌迅速検査によってS.pyogenesの関与が強く疑われたが細菌培養ではいずれも陰性であり、PCR法によるspeBの検出によって初めて診断し得た。今回のPCR法で標的としたspeBはS.pyogenesのほとんどの株に特異的に保有されており、本菌の証明に有用な遺伝子であると考えられる。
 小児におけるA群溶連菌性膿胸の報告としては、これまで自検例を含めても14例を数えるのみであり、本例以外ではいずれも培養にて陽性が確認されている。本例においては、培養陰性の誘因として初発時の抗生剤投与が考えられるが、本菌が抗生剤に感受性であるため席因不明とされていたこれまでの膿胸の症例のいくつかは本菌によるものである可能性も考えられ、これらの診断にPCR法が有用であると考えられた。

表2.A群β溶連菌性膿胸の報告例


1)LouieL.J.Clin.Microbiol1998,36;3127−3131

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