学術論文

脳波検査の入眠パターンにおける検討

奈良県立医科大学附属病院 中央臨床検査部 

生理機能検査室   今 西 芳 貴


1. 目的

 脳波検査において、 入眠時に異常が出現しやすいと言われている。 またspindle stageまで脳波をとることにより多くの情報 (hump、 spindleの出現部位、 左右差、 周波数、 持続時間等) を得ることが出来る。 日常の脳波検査の中で、 α波消失後睡眠脳波 (spindle stageまで) をどれくらい待てば得られるか? hump出現後何分待つことによってspindle stageまで記録できるのか? spin-dle stageに至るまでの過程をパターン化して検討した。

2. 対象

 1999年1月〜2月まで脳波検査をした282例中、 新生児及び乳幼児で催眠剤を使用したもの72例、 記録の最初からsleep stageだったもの7例、 意識レベルの低下があったもの3例を除いた200例 (男106例 0〜89歳平均42.14歳、 女94例 2〜83歳平均36.86歳) を対象とした。

3. 方法

睡眠パターン (図1) は、 検査中覚醒時のみしか記録できなかったものを 「Awake」、 drowsy stageまでしか記録できなかったものを 「Drowsy」、 睡眠脳波が記録できた症例の内drowsyからhumpの出現まで2分未満でhumpからspindleの出現まで2分未満のものを 「I型」、 drowsyからhumpの出現まで2分未満でhumpからspindleの出現まで2分以上要したものを 「II型」、 drowsyからhumpの出現まで2分以上要し、 その後spindleの出現をみたものを 「IIIa型」、 humpの出現がなく、 いきなりspindleの出現をみたものを 「IIIb型」 とした。

4. 結果 (図1、 図2)

  
  
 
 200例中 「Awake」 92例 (46%)、 「Drowsy」 23例 (11.5%)、 「I 型」 52例 (26%)、 「II 型」 15例
(7.5%)、 「IIIa型」 11例 (5.5%)、 「IIIb型」 7例 (3.5%) であった。 睡眠の傾向としては、 hump、 spindleを認めるまで共に時間が短かった 「I 型」 が最も多くみられた。 「II 型」 はhumpの出現までは2分と短かったが、 spindleの出現までバラツキが多く最長8分要した。 「IIIa型」 はα波消失からhump出現まで最長6分と少し長くかかっていたが、 humpからspindle出現まで4分以内と短かった。 「IIIb型」 はα波消失からspindle出現までバラツキがあって、 最長7分要した。 診療科別 (表1) では精神科の症例が眠りにくく、 sleep stageまで記録できたのは22%だけであった。 疾患別 (表1) では 「てんかん」 56%、 「てんかんの疑い」で54%と約半数がsleep stageまで記録できたが、 「精神科疾患」では18%のみであった。 年齢別 (表2) 10歳未満で66%、 10代で54%と若年層で眠り易い傾向にあった。 精神科の患者さんで眠りにくい理由に使用中の治療薬剤の影響はないか、 メジャートランキライザーとマイナートランキライザーに大きく分けて検討した (表3) が、 主だった相関はみられなかった。 薬剤使用なしで眠りにくかった9例については、 神経症、 心因反応などの疾患が多く、 患者さんの神経質な性格的要素の方が大きいように思われる。

5. まとめ

 1)α波の消失からhump出現までに最長6分、hump出現からspindle出現までに最長7分要した。
 2)診療科別では精神科の患者さんが眠りにくく、 sleep stageまで記録できたのは22%だけであった。 疾患別では 「てんかん」 56% 「てんかんの疑い」 54%がsleep stageまで記録できたのに対し、 精神科疾患でsleep stageまで記録できたのは18%のみであった。
 3)年齢別では、 10歳未満66%、 10代54%、 20代24%、 30代37%、 40代23%、 50代35%、 60代37%がsleep stageまで記録でき若年層で眠り易かった。
 4)精神科疾患では、 使用薬剤の量も多く基礎波にα波の出現が悪く、 またdrowsy stageまでの繰り返しが多く明瞭な睡眠過程を記録しにくかった。 尚、 使用薬剤の種類による影響はなかった。

 

6. 結語
 1)脳波検査で、 睡眠脳波 (drowsy stageまでを含む) が54%に得られた。
 2)睡眠脳波中、 α波消失から10分以内で79%にspindle stageが得られた。

7. 検査室より御願い

 私達は脳波の検査時に、 できれば覚醒時と睡眠時両方を記録したいと考えています。 検査前日は睡眠不足の状態で来院されること、 特に患者さんが子供さんの場合、 トリクロリールシロップはできるだけ服用せずに自然睡眠の状態で脳波記録をとりたいと考えております。 検査直前に眠られることのないように親御さんに御協力を御願いしたいと思います。