会員の声

『私とバードウォッチング』

医療漬人岡谷会岡谷病院 山下 貴代

「趣味は?」と開かれると「バードウォッチングです。」とこの20数年答えています。相手に何か特殊な感じを与えるようでその心地よさもあり言い続けています。私が鳥を見始めたころは、バードウォッチングと言う言葉も行為もあまり世間に知られていませんでした。双眼鏡と望遠鏡と図鑑を持ってうろつく私の姿は、とても異様に写ったらしく、「何か測量されてるんですか?」とか「何を撮影してはるんですか?」などよく訊ねられました。家族からも「鳥見て、何おもしろいの?」と全く理解されない状況でした。今では、双眼鏡を片手に鳥を見ていると「バードウォッチングですね。」と声をかけられます。また、自治体の催しなどにも野鳥観察会が企画されるようになりました。このような私と野鳥を取り巻く社会のいい変化にひとりほくそ笑んでいる今日この頃です。
 そもそも私がバードウォッチングを姑めるきっかけとなったのは、『ケリ』という鳥との出会いです。奈良盆地の平野部では、水田、湿草地にごく普通に見られる鳥ですが、一般に知られていないと思います。足の長い大型のチドリで、頭や体は灰褐色のため田んぼにいると目立ちませんが、一旦飛び立つと、翼の上面が白、黒、褐色の特徴のある配色になり、かなりよく目立ちます。街中から郊外に引っ越し、暫くして家の周りに、この今まで知らなかった見たことのない鳥がいることに気付きました。その鳥の名前を知りたくて、双眼鏡を持って田んぼに足繁く通う毎日でした。そして、家の周りに一体どれぐらいの鳥が生息しているのか気になり始め、ひいてはどんな自然環境の中で私は生きているのか関心を持つようになりました。2、3年、春夏秋冬、自宅周辺をくまなく観察し、実に多くの鳥がいるのに驚かされました。
 では、周りが農耕地で小さな河川があり、ため池が点在する自然環境で、どのような鳥がいるのかと言いますと…ほぼ1年中に見られる鳥にスズメ、ヒヨドリ、ムクドリ、キジバト、コサギ、ハシボソカラス、ハシブトカラスなどがいます。御存知ですか?キジバトは公園などにいるドバトとは違います。コサギは白鷺ですが、シラサギと言う種はいません。普段見かける全身真っ黒なカラスも嘴の太さの違いでハシボソとハシブトに区別します。また渡りをする鳥達がいます。春に日本に渡って繁殖し夏の間見ることのできる鳥を夏鳥と呼び、代表的な鳥として、ツバメがいます。この辺りでは、まだ寒い3月中旬のころに早くも渡ってきた第一陣のツバメを見かけます。また、逆に秋に渡来して越冬し、冬の間見ることのできる鳥を冬鳥と言い、カモ類やツグミです。ほとんどの鳥は雄が美しく、雌は地味な色で、マガモ、コガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、オナガガモ、ホシハジロ、キンクロハジロなどのカモの雄もそれぞれ特徴のある色彩になります。奈良市で言えば平城宮跡にある水上池が県下有数のカモの渡来地です。また、旅鳥と言って、春と秋の渡りに日本列島を通過し夏も冬も留まらない鳥がいます。多くのシギ類で長距離の移動をします。どうでしょう。こうしてみると四季を通じ多種の鳥達が私達の周りを人知れず入れ替わり立ち替わり訪れていることに気付さます。また、その年の気候などによって珍しい鳥に出会うこともあります。最近では、去年の11月に奈良市の東山山麓にある弘仁寺、正暦寺方面にハイキングに行きました。低山で見られるワシタカ類のノスリが出てきたり、ちょっとのぞいた山間の小さなため池にコバルトブルーのカワセミがいたり、鳥達との思いがけない出会いが私を飽きさせません。また、自宅の窓から、神社の巨木が見え、カワラヒワ、ムクドリ、イカル、ジョウピタキ、ツグミなど様々な鳥が羽を休めます。去年8月に引っ越しし、家の中からバードウォッチングができる贅沢を味わっています。
 やはり、鳥を見始めた頃に比べると、随分田畑やため池はつぶされ、道路や商業地に変わっています。開発と保全は両刃の剣ですが、自然があり多くの野鳥が住める環境は、人にとっても優しい環境だと言うことを実感しています。その自然環境を守る努力は惜しみなくしていきたいと思います。
 また、皆さんも双眼鏡(8倍)と図鑑(ポケットサイズ)さえあれば簡単に楽しめますので、野鳥達の生き生きとした姿、美しい姿をちょっとのぞいてみて下さい。