金剛山を仰ぎ見て

県立五條病院 坂上 幸子 

 私は金剛山を奈良県側から登るには一番おもしろいと言われている登山口がある北宇智に住んでいます。最寄りのJR北宇智駅は、日本でも数少ないスイッチバックが残っている駅で知られています。初めてこの駅に来た時は電車が進行方向とは反対に進むのでびっくりしましたが、ここに住むようになりこの駅で上りと下りが対向する時など(JR和歌山線は単線)遮断機がおりたまま目の前を電車が6回も通るのを見ることになりイライラする時もあります。そんな所にある家や職場の病院からも見える金剛山を毎日眺めながら、生活や仕事をしています。
 家の台所からは真正面に雄大な姿がまじかに見え、病院からは他の山々と連なる姿が遠目に見えます。どちらから眺めても四季おりおりの姿は美しく目を楽しませてくれます。春から夏にかけては新緑。緑がだんだん濃くなっていき目をみはるような緑色になり、空気の澄んでいる日などはその色の鮮やかさにびっくりします。秋になれば紅葉。いろいろな色がまざり合いながら山の頂上からしだいに色が変わっていき、山全体が紅葉していくコントラストは美しく趣があります。冬はなんといっても雪景色。雪がしんしんと降っているときは山の稜線はなにも見えず重苦しい感じがしますが、雪がやんで日がさしたときの姿はとてもきれいで輝いて見えます。結婚して初めての冬は金剛山から吹きおろしてくる風の冷たさに驚き、干した洗濯物が凍ってしまうのを見て恨めしく見上げたものでした。でも今はこの雪景色が一番好きで、その姿はどこか別の所に来たような気分になってしまうほど神秘的に見え、心が洗われるような気がします。
 いつもは見ているだけのこの山に、一度子供といっしょに登ったことがあります。なかなか道が急で、自分では一生懸命登っているつもりでもあまり前に進まない。頭の中でいつも家から見ている金剛山を思い浮かべながら「今はどのあたりを歩いているんだろうか?」「あとどのくらい登ればいいんだろう」なんてことばかり考えていました。おまけに、自分自身も登りかねているのに遅れがちな子供を押したりひっぱったりしながら登っていたのでまわりを見る余裕など殆どなく、出発する前に「上から家が見えたら手を振るからね」なんて言っていた元気はどこかへいってしまいました。やっとの思いで頂上に着くと想像していたよりも広くなだらかで、家から見ていたのとは随分感じが違うものだと思いました。帰りはわき目もふらずころげ落ちるように下り、あんなに苦労して登ったのに早々と下りて行くのがもったいないような気分になってしまいました。子供は「二度と登らない。」と言うし、私自身もう一度登れと言われても二の足を踏んでしまうと思ってしまいました。今でもよく金剛山を登りに行く人達を見かけますが、私には登るよりも下から見て「きれいだなあ−」と眺めているほうがよっぼど合っている。
 どこかに出掛けていた時など、近くまで帰って来て金剛山が見えてきたら「家へ帰って来たんだ」と思う自分がおかしく、金剛山がとても身近な山になってきたんだと思わずにはいられない。
 これからも、いろいろな姿を楽しませてくれる金剛山を見ながら、おおらかでゆったりとした気持ちで過ごしていきたいと思っています。