奈臨技生理機能検査部門では「心電図判読へのステップアップ」シリーズとして、心電図検査症例検討会において、心電図波形を呈示し、判読および波形の解析・解説を行っています。その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。

なお、ここに掲載させていただいている心電図等は、平成17年度の症例検討会にて提示された症例で、各施設のご好意と了解のもとにホームページ上に掲載しております。個人情報・プライバシー等の保護の為に、心電図波形等以外の施設名・患者名・日時等に関する事はすべて架空の設定としています。

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心電図判読へのステップアップ 
「電気軸の速くて簡単な求め方」

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【難易度】★★★★★

この心電図は、60歳、男性のものですが、判読してみましょう(心電図(1))。


心電図(1)



 

【判読のポイント】 

1)どのような不整脈でしょうか。
2)R−R間隔
3)完全右脚ブロック(右軸偏位)です。

まず、この心電図が洞調律であるならば、基線上にP波があるはずですので、まずP波を捜します。ところが、この心電図では基線上には波を打ったようなものがあり、これは、P波ではなくF波(粗動波)もしくはf波(細動波)にあたるものと考えられます。すなわち、心房粗動・心房細動が考えられます。

心房細動は心房が規則的な興奮をおこせずに不規則に細かく震えるような状態で、そのいくつかかの刺激が不規則に心室に伝導されますので、QRS群もこれにならって不規則に現れます。いわゆる絶対性不整脈(=恒久性不整脈=リズムが一定でなく脈圧にも大小を生じるようなものを指します)です。F波は、細かい不規則な揺れとなって現れます。一方、心房粗動は、心房内で250〜350/分の規則正しい頻度で見られ、心室への興奮伝導は、2対1(仮に350分/分とすると心室は175/分と頻脈になります)、3対1、4対1など色々な割合で伝えられ、QRS群は規則正しい間隔で現れます。F波の形は鋸波状・ドーム状・サインカーブ状と種々あり、心室の興奮の順序は洞調律と同じですのでQRSの形に変化のないのが通常です。参考までに心房粗動の波形を出しておきます(心電図(2))



心電図(2)




では、F波かf波の鑑別ですが、この心電図を見てみると基線上に波打ってあるのは、細動波(f波)で心房細動です。QRSのR−R間隔は規則正しい整で現れており、一般的な心房細動の状態とは解離しています。また、レートは48/分と徐脈を呈しています。では、これをどう考えるかですが、QRSが規則正しく現れるなら、心房粗動とも思えます。しかしながら、F波ではなくf波ですので心房細動でありながらR−R間隔が規則正しく出ており、絶対不整脈ではなく、R−R間隔が一定の徐脈と言うことになります。

【まとめ】

III°房室ブロックを伴った心房細動です。

この心電図を直に解読できれば(中級)〜上級です。リスキーな不整脈ですので見逃さないように。    

【補足】

III°房室ブロックと心房細動を同時に存在しますが、どちらが先行していたのでしょうか。これは、あくまで推測ではありますが、心房細動の治療方針としては、レートコントロール、すなわち頻拍や極端な徐脈にならないように薬剤でコントロールする事と、血栓が左房内に出来ないようにワーファリンやアスピリンなどを使用しての抗凝固療法が主体となります。心房細動だけでは直ちに生命に危険が生じませんが、III°房室ブロックの場合、極端な徐脈になるとに目眩や意識消失発作を起こしたりする場合もありペースメーカーの適応条件に該当します。仮にIII°房室ブロックが先行していたなら、ペースメーカーを移植している可能性が高く、この心電図のようにペースメーカー調律でないなら、心房細動になってからIII°房室ブロックを併発したと考えられ、リスキーな不整脈を伴っているので判読に十分な注意を要します。ただし、ペースメーカーの移植は、本人の希望・年齢・QOLの改善の余地等も考慮されるので一概にこの通りとは限りません。

[参考文献]
新心臓病学第二版 石川恭三編 医学書院
フリードバーグ心臓病学第三版 青利和他 廣川書店
循環器病学 村田和彦他編 医学書院

(奈良県臨床衛生検査技師会 生理機能検査部門 循環機能)

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