奈臨技生理機能検査部門では「心電図判読へのステップアップ」シリーズとして、心電図検査症例検討会において、心電図波形を呈示し、判読および波形の解析・解説を行っています。その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。

なお、ここに掲載させていただいている心電図等は、平成17年度の症例検討会にて提示された症例で、各施設のご好意と了解のもとにホームページ上に掲載しております。個人情報・プライバシー等の保護の為に、心電図波形等以外の施設名・患者名・日時等に関する事はすべて架空の設定としています。

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心電図判読へのステップアップ 
「電気軸の速くて簡単な求め方」

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【難易度】★★★

心電図(1)・心電図(2)は、14歳、男性です。判読して下さい。
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心電図(1)


 

心電図(2)




【判読のポイント】 
1.洞調律の部分と変形したQRS群が現れています。

2.変形したQRSはなぜ起こったのでしょうか。

洞調律であるQRSの12誘導全部の波形を見ると、電気軸は左軸に偏位しておりV2(胸部誘導)に移行帯があるもののほぼ正常な波形と思われ、特に問題点はないと考えられます。では、変形したQRSの個所ですが、まずは一つづつ分析してみます。各波や間隔の計測は、皆さんでやって見ましょう。

P波について
1) P波の幅
2)P−Q(R)間隔
3)P波の形(陽性・陰性・二峰性・二相性など)

QRS波について
1) QRSの幅
2) QRSの形
3) QRS波の各高さ・深さ
4) P波との関係(P波とQRS波がつながっているか)
5) R−R間隔(一定・延長・短縮・心拍数など)
6) 電気軸

ST−T
1) QT間隔又はQTc間隔
2) ST部分の変化(上昇・低下など)
3) T波(陽性・陰性・冠性Tなど)
4) U波の有無

その他にも、必要と思うものがあれば計測・確認しましょう。

では、P波と変形していないQRS群とはつながっており、洞結節から出た刺激は、P波を形成し、房室結節→ヒス束→左右の脚〜プルキニエ繊維と順調に最終まで刺激が伝わっていると考えます。一方、P波と変形しているQRS群ですが、基本的には同様につながっていると思われますが、少し異なっているとも思われます。

QRSの幅を見てみると100ms(2.5mm)以上と幅の広いQRSになっており、また、QRSの上行脚にデルタ波が見られ、P−Q(R)間隔は120ms(3mm)以下と短縮しています。ここまでは、教科書にも載っていることなので鑑別は易いと思います。

判別を迷ってしまい困難と思わせてしまうピットホールとしては、出現パターンにあります。連続して上のQRSが出ておれば難なく判別可能でありますが、この場合、一拍おきに出ており、一般的な教科書に載っているようなWPW症候群のようには安易に判別し辛い点です。

正常心では、心房と心室は結合織性の房室輪により隔絶されており、洞結節からの刺激は伝道刺激系を経て心室に伝えられます。WPW症候群は早期興奮症候群に分類され、正常な伝導路以外に生まれつき持っている副伝導路(ほとんどが先天性と言われています)であるケント束が原因で、心房(左または右どちらでもあり得、且つ同時に複数以上もあり得る)から直接、心室(左または右)に刺激を伝え、正常な刺激伝導系を得ずに心室を興奮させます。

房室結節を経由しない為にP−Q間隔は短縮し、刺激がケント束で繋がっている心室に入るとゆっくりとその心室壁から興奮させていくのでデルタ波を形成します。その後に続いて正常伝導路からの刺激で心室を興奮させ融合したQRS群を形作ります。デルタ波は大小色々で、誘導によってははっきり認めるところと不明瞭なところがあり、P−Q(R)間隔もデルタ波の大きさに左右されます。

WPW症候群には、持続的に出現する場合以外に、時として正常に戻ってしまう間歇性や一見して全く正常に見える潜在性がありますが、この心電図波形は間歇性WPW症候群と考えられます。通常、間歇性WPW症候群であってもある程度持続性に出現する場合が多いですが、この心電図の場合のように一拍おきに出現する場合もあります。

また、ケント束の存在する位置によってA型・B型・C型の三つに分類され、胸部誘導のV1のQRS群の形で判別します。詳細は成書を参考にして下さい。

【まとめ】

教科書にはあまり載らないパターンですが、WPW症候群の場合、いろいろな出現パターンがあることを覚えておいて下さい。

間歇性C型WPW症候群

 

[参考文献]

新心臓病学第二版 石川恭三編 医学書院
フリードバーグ心臓病学第三版 青利和他 廣川書店
循環器病学 村田和彦他編 医学書院

(奈良県臨床衛生検査技師会 生理機能検査部門 循環機能)

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