奈臨技生理機能検査部門では「心電図判読へのステップアップ」シリーズとして、心電図検査症例検討会において、心電図波形を呈示し、判読および波形の解析・解説を行っています。その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。
なお、ここに掲載させていただいている心電図等は、平成17年度の症例検討会にて提示された症例で、各施設のご好意と了解のもとにホームページ上に掲載しております。個人情報・プライバシー等の保護の為に、心電図波形等以外の施設名・患者名・日時等に関する事はすべて架空の設定としています。 |
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心電図判読へのステップアップ 「電気軸の速くて簡単な求め方」
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【難易度】★★★★
この心電図(3)を判読してください。
P波、QRS群、ST部分、T波、電気軸のそれぞれの幅・形・間隔・振幅を計測してみましょう。
心電図(3)
【判読のポイント】
【ポイント】
1. QRSの幅
2. QRSの形
3. P−Q間隔心電図の判読は慣れてくればパターン認識による所が大きくなってきますので、波形を見た瞬間には凡ねその予想がつきます。これを元に心電図上の波形・各波の幅・間隔などを目で確認するだけで、どのような不整脈なのか、虚血を示しているのか、肺に負担がかかっているのか、などを判断出来るようになってきます。しかしながら、パターン認識で出来るようになるためには、心電図の基礎をはじめ、不整脈の原因や機序、虚血時のSTの上昇・低下の機序、伝導刺激系に支障が起こった場合に波形がどのように変化するのか、その他にも自動能や変行伝導等々をよく理解し、把握した上で判読する必要があります。
今回の心電図をよく見てみましょう。P−Q間隔の正常範囲は、120〜200ms(3mm〜5mm)ですので一見しただけでも延長していると分かります。QRS群の幅の正常範囲は、100ms以内(2.5mm以内)ですのでこれよりは幅広くなっており、よく見るとQRS群の上昇脚にデルタ波を認めます。
では、この二点に絞って考えましょう。PQ間隔の延長ですが、どの部分も同じ間隔で変化がなく、漸次延長しているようでもありません(2度AV−BlockはR/O)。単純に考えてしまうと、P−Q間隔が延長した1度AV−Blockでは? と思ってしまいます。言い換えると、心房の興奮の始まりから心室に刺激が伝わるまでの時間(房室伝導時間)が延長していると言う事です。もう一つの点のQRS群はどうでしょうか。QRS群の上昇脚にデルタ波が存在すると言うことは、ケント束の存在を疑わせるWPW症候群が考えられます。以上ですが、はたしてこの心電図の結論は、1度AV−BlockとWPW症候群が合併したものと判断してもいいのでしょうか。仮に、1度AV−Blockがあったとしても、ケント束が存在するのであれば、心房と心室がケント束によって直接つながっているはずですので、心房で発生した興奮は間髪をいれずに心室へと入っていくはずです。また、時間のかかる房室結節を経由しないからP−Q間隔は短縮するはずです。ところが、この症例では、P−Q間隔は延長していますので、ケント束(WPW症候群)の存在は否定的かと考えます。
確かに、P−Q延長とデルタ波が見られます。それでは、デルタ波はケント束のあるWPW症候群でも見られますが、それ以外の早期興奮症候群ではどうでしょうか。副伝導路が存在するものにはWPW症候群の他にも、まず、JAMES束を持つLGL症候群があります。この場合、
1. 正常P波
2. P−R間隔短縮
3. QRS群に変形なし(デルタ波なし、幅も正常)
4.原因はJAMES束の存在で、心房とヒス束〜房室結節の出口付近(要は伝導速度が極端に遅くなる房室結節を飛び越えるように)を結んでいる。となります。もう一つ、副伝導路でMAHAIM繊維があります。この場合は、
1.正常P波
2.P−R間隔正常
3.QRSの上昇脚にデルタ波
4.QRS幅延長
5.MAHAIM繊維は房室結節・ヒス束・左脚起始部と心室を結んでいる。心房の興奮の後、刺激は伝導路系の房室結節を経由してくるのでP−Q間隔は正常範囲内にある。では、P−Q間隔延長と幅広いQRS群+デルタ波を判読してみてください。
【まとめ】
この心電図の場合、早期興奮症候群に属するもので、ケント束についてだけでなくMAHAIM繊維についても知っていないと判読は困難でしょう。
I 度AV−Blockを伴った非典型的WPW症候群(MAHAIM繊維)
[参考文献]
新心臓病学第二版 石川恭三編 医学書院
フリードバーグ心臓病学第三版 青利和他 廣川書店
循環器病学 村田和彦他編 医学書院
(奈良県臨床衛生検査技師会 生理機能検査部門 循環機能)