2000.12.16 奈良県臨床衛生検査技師会 一般検査研修会 資料

尿沈渣中に見られる悪性異型細胞について

国立京都病院 臨床検査科  佐伯 仁志

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1.はじめに
  尿沈渣中に見られる異型細胞は良性異型細胞と悪性異型細胞に分けらるが、尿沈渣検査法2000(JCCLS GP1-P3)において「異型細胞」という言葉は、癌腫や肉腫、またはこれらの可能性があるものを意味する用語として用いられており、これらの細胞の存在を臨床側に報告することは泌尿器系腫瘍の発見の糸口となり、さらに精査が進められることによって、診断から治療へとつながる。今回は、悪性異型細胞を中心に尿沈渣中で異型細胞を認めたときの見方、考え方についての一般的事項について述べる。

2.異型細胞の見方
  尿沈渣で異型細胞と思われる細胞を見つけたときに患者情報として年齢、性別、採尿方法、臨床診断を確認する。好発年齢から否定できる腫瘍、肯定できる腫瘍を考える。性別からは男性、女性それぞれ特有の臓器があり、その臓器の腫瘍がある。これらの腫瘍からの転移、浸潤なども考慮する。採尿方法からは健常人であれば自然尿で集塊を形成する細胞はほとんど出現しないが、カテーテル採尿の場合は機械的な刺激により、移行上皮細胞が集塊で出現する。回腸導管術を施行した患者の尿の場合、円形の回腸細胞が多数見られ、ときに集塊を成して出現することもある。
  次に見つけた細胞が悪性を疑う細胞なのか、本来の細胞系に分類すべき細胞なのかを見分けなければならないが、できればS染色やパパニコロウ染色などをして観察することが望ましい。弱拡大では、大きく分けて以下の5所見が要チェックの細胞となる。(図1)


 A.(大きな)細胞集塊 B.核細胞質比の大きな細胞 C.形の奇妙な細胞
D.核の大小不同が目立つ 細胞集塊、多核細胞
E.小型円形の単一性細胞

また、これらA〜Dの細胞を見つけた時は、強拡大にして個々の細胞の特徴などを観察する。強拡大における観察ポイントを以下に記す。

A.(大きな)細胞集塊における観察ポイント
  この場合は、まずどのような形をした集塊かを観察する。大別すると、乳頭状集塊、腺腔形成、柵状配列、敷石状配列の4つが挙げられる。

a.乳頭状集塊(図2a)
この場合は細胞集塊に重積性を伴うので集塊辺縁の細胞を観察する。機械的な刺激により剥離した移行上皮細胞は、集塊状で出現していてもN/C比の低い細胞からなる集塊、すなわち細胞質が豊富だが、癌の場合は細胞質が非薄であることが鑑別点となる。次に、集塊からの核が突出、核形不整、核クロマチンの濃染、核縁 図2a 乳頭状集塊の肥厚、核の大小不同の有無を観察する。考えられるものとして機械的な刺激により剥離した移行上皮細胞の集塊や月経時に見られる子宮体部内膜細胞の混入、悪性であれば低grade(G0、G1)の移行上皮癌または腺癌を考える。

b.腺腔形成(図2b)、柵状配列(図2c)
核の位置が細胞質に対して偏在した細胞が、腺腔形成や柵状配列にて出現した場合、腺系の細胞の可能性が高い。高円柱状の細胞が図2bのような腺腔を形成することもよくある。
 この場合の細胞所見は、乳頭状集塊で述べた所見とほぼ同様であるが、形態的に異型が無ければ子宮頸部内膜細胞(女性の場合)や前立腺由来の細胞などが考えられる。悪性であれば腺癌が考えられ、核の位置に上下が見られたり、核や細胞の大小不同、淡い細胞質、細顆粒状クロマチン等の細胞所見を認めることが多い。由来としては尿路原発の腺癌、浸潤癌としては前立腺癌、腎癌、大腸癌、転移癌として消化器系の腺癌などが挙げられる。


a.乳頭状集塊(図2a) 腺腔形成(図2b)   

柵状配列(図2c)

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