E、小型円形の単一性細胞
この場合、細胞の結合を先ず観察する.結合があれば上皮性の細胞、なければ非上皮性の細胞が考えられる。次に核形不整や核クロマチンの濃染の有無を観察する。
上皮性のもので良性であれば、移行上皮細胞の深層型、TUR−P後に出現する前立腺由来の細胞などがあり、悪性であれば高〜中分化型の前立腺癌(図6a)、移行上皮癌や非常にまれではあるが、肺の小細胞癌の転移、尿路原発の神経内分泌癌(両者は形態的には全く同一:図6b)が考えられる。 ‘
図6a前立腺癌
図6b小細胞癌(神経内分泌癌)
図6c 悪性リンパ腫
非上皮性のもので良性であれば単球やリンパ球が考えられる。悪性のものであればまれではあるが、いわゆる造血器系腫瘍を考慮する。尿路原発または浸潤、転移による悪性リンパ腫は核形不整(核の切れ込みやねじれなど)を伴い、核クロマチンが濃染した小型の円形細胞が単一性に上皮性結合を持たず出現し(図6c)、骨髄腫細胞であれば核の位置が細胞質に対して偏在し、核周明庭を有する小型の円形細胞が単一性に、上皮性結合を持たず出現する。
3.背景について ・
一般的にこれらの腫瘍細胞が見られる場合、細胞の出現している背景は赤血球、白血球、壊死物質などがみられる、いわゆる腫瘍性背景が通常である。特に強度の肉眼的血尿ではこのような腫瘍細胞は染まりにくいので染色後、時間を置いて鏡検するなどの考慮が必要である。また、腫瘍が表在性のもの、乳頭腫や非乳頭状非浸潤癌(上皮内癌)などでは赤血球、白血球、壊死物質などはあまり認められず、きれいな背景であることが多い。
4.報告について
これまで見てきたような異型細胞の取り扱いや報告様式はどのようにするのかということであるが、尿沈澄検査法2000(JCCLSGP1-P3)によると、下記の4事項が挙げられており、本文中にも「以下のように扱うことが望ましい」とされている。
●尿沈渣検査において異型細胞として取り扱う細胞は、基本的には悪性細胞または悪性を疑う細胞とする。また、悪性を疑う細胞のうち、異型性は弱くても悪性の可能性を否定できない細胞をも異型細胞として報告する。
●実際に異型細胞として報告する場合は、ただ単に「異型細胞l(+)」などと報告するのではなく、必ずコメントを付記して報告する。そのコメントは、どの細胞系の、どういう異型でどのような病態が考えられるかなどを可態な限り分かりやすく報告することが大切である。
●良性と分かる異型性を示す細胞は、異型細胞として報告するのではなく、本来の細胞系(扁平上皮細胞、移行上皮細胞)などに分類して報告し、必要に応じてコメントを付記する。また、良性と分かる異型性を示す細胞のうち、細胞系の分からない判定困難な細胞は分類不能細胞に分類し、これも必要に応じてコメントを付記する。
●いうまでもなく、異型性がなく細胞系の分からない判定困難な細胞については分類不能能細胞に分類する。
5.まとめ
尿沈漆検査法2000(JCCLSGPl−P3)において、異型細胞の取り扱いが明確になり、尿沈渣を鏡検する我々も、細胞診断学的な知識をもって日常業務に望むことが非常に重要であると考える。今後も患者の為に、日々研鑽して行きたいと思う次第である。
参 考 文 献
(1)(社)日本臨床衛生検査技師会編:尿沈渣検査法2000.日本路床衛生検査技師会,東京,2000.
(2)(社)日本臨床衛生検査技師会編:尿沈渣検査法・日本臨床衝生検査技師会・東京,1991.
(3)(社)日本臨床衛生検査技師会編:尿沈渣検査法補遺・日本隠床衝生検査技師会,東京,1995.
(4)西 国広ほか:尿沈渣検査のすすめ方.近代出版,東京,1996・
(5)矢谷 隆一ほか:細胞診を学ぶ人のために,医学書院,東京,1990・
(6)水口 國雄:実践 細胞診カラー図鑑 応用編・HBJ出版局・医学書院・東京,1990.
(7)油野 友二:尿沈渣検査における異型細胞・Modern Laboratory,Vol 4(1),バイエル三共(株)、1998.
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