2000.12.16 奈良県臨床衛生検査技師会 一般検査研修会 資料

尿沈渣中に見られる悪性異型細胞について

国立京都病院 臨床検査科  佐伯 仁志

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C.敷石状配列

 この場合、重積性のない比較的平面的な細胞 集観で辺縁が丸くなくバサバサしたような感じであれば扁平上皮系の細胞が考えられる。

(図2d)敷石状配列

 この場合は細胞個々を観察する。核や細胞の大小不同があり、N/c比はやや高く、核の位置は細胞質に対して中心性で、核クロマチンは粗顆粒状はごっごっした感じであれば扁平上皮癌が考えられる。核小体は目立つものからあまり目立たないものまである。由来としては、尿路原発の扁平上皮癌、子宮頸部扁平上皮癌の浸潤や尿中への混入などが考えられる。


B.核細胞質比の大きな細胞

 この場合、N/C比が大きいからといって直ちに異型細胞とせず、細胞個々をよく観察する。

 良性のものとして、細胞の形に角ばっている部分があり、核クロマチンが濃染していなければ深層の移行上皮細胞や反応性の移行上皮細胞であることが多く、孤立散在性または、軽度の結合を有して出現する。また、腺腔形成で出現し、核小体は目立つが核クロマチンが濃染していなければ反応性の尿細管上皮が考えられる.他には、孤立散在性ですりガラス状の核であればポリオーマウイルス感染細胞を考える。

 核クロマチンの濃染が見られたら、悪性である可態性は非常に高いと思われる。次いで核形不整、核小体の腫大を認めれば頻度的にも高gradeの移行上皮癌が考えられる。また、核の位置が細胞質に対して偏在傾向を示し、きれいな円形の核小体腫大を認める場合、腺癌を考え、また、核の位置が細胞質に対して中心性で、細胞質に層状構造を認め、核クロマチンが粗顆粒状ならば扁平上皮癌を考える。


図3a 核型不整図            3b 核小体の増大

図3c 濃縮核               図3d 細胞質層状構造

       
図3 核細胞質比の大きな細胞のチェックポイント

C.形の奇妙な細胞

 この場合、細胞の形が奇妙なだけで即、扁平上皮癌とせずに必ず細胞をよく観察することが重要である。まず細胞の大きさは、癌であればある程度は大きな細胞が出現する。しかし、細胞が大きくて核クロマチンが濃染していない場合、前立腺癌におけるホルモン療法の時に出現する扁平上皮細胞や放射線願射により変化した扁平上皮細胞が考えられるが、前者はN/C比が小さく核クロマチンの濃染も見られず細胞質は比較的淡く染色され、細胞の辺縁がくっきりしている。後者もN/C比は大きいが、やはり、核クロマチンの濃染は見られず細胞質は比較的淡く染色され、ときに空胞を見る。

 核クロマチンが濃染している場合は扁平上皮癌が考えられ、核の内部が見えないくらい濃染することもある。これに次いで核形不整や相互封入像を認めると,ほぼ癌を疑える(図4)。また、結石やカテーテル挿入などの機械的刺激により剥離した有尾状の移行上皮細胞がときに出現することがあるが、このような移行上皮細胞であれば細胞質は扁平上平細胞に比べ顆粒状を呈し、核クロマチンも増量していないことが多い。

図4 形の奇妙な細胞


D.核の大小不同が目立つ細胞集塊、多核細胞

 この場合、核クロマチンの濃染があり、核の大小不同が目立てば反応性の移行上皮細胞よりは悪性のものを考える。細胞集塊であれば、強拡大で集挽辺縁の細胞を観察し、集塊から核の突出がみられないか、集塊から細胞がこぼれるように剥離していないか(ほつれ現象)、核形不整はみられるか、核クロマチンの濃染、明瞭
な核小体、核縁の肥厚などを見る。(図5a)多核細胞であれば、細胞の中に細胞が取り込まれていないか(相互封入像の有無)を見る。相互封入像を見れば癌である可能性が高いので積極的に見つけたい所見であり(図5b)、移行上皮癌や扁平上皮癌で見られる。相互封入像がなくても核クロマチンの濃染があり、核の大小不
同が目立てば反応性の移行上皮細胞よりは悪性のものを考える。(図5c)次に核形不整の有無、核クロマチンの濃染、明瞭な核小体、核縁の肥厚など一般的な悪性所見を観察する。考えられるものとしては移行上皮癌、腺癌、扁平上皮癌などが挙げられる。

図5a核の大小不同が見られる細胞集塊 

図5b相互封入像   

 図c)核の大小不同が見られる多核細胞

        

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