奈臨技生理機能検査部門では「きれいにとれる」シリーズとして、生理機能検査の各検査について、検査の原理や臨床的意義、わかりやすい結果を正確に臨床側に報告するための検査のコツ、について研修しています。 その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。 |
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疾患編
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疲労検査,反復誘発筋電図(Harvey-Masland test)
反復誘発筋電図は神経筋伝達障害の有無・程度を調べる検査である.
神経接合部の構造
運動神経と筋の接点は,神経筋接合部または終板とよばれ,アセチルコリン(ACh)を伝達物質としている.
神経終末にはシナプス小胞が多数存在しその中にAchが含まれている.筋側の接合ヒダにはアセチルコリン受容体(AChR)が存在する.AChを分解するコリンエステラーゼ(ChE)も接合ヒダ全体に広く分布している.
正常な神経筋伝達過程
運動神経のインパルスが神経終末に達すると,カルシウム(Ca)が神経内に入り,シナプス小胞よりAChが放出される.放出されたAChはAchRと結合し,終板電位(EPP)を発生させ,このEPPが筋線維鞘膜の閾値(発火レベル)に達すると筋の活動電位が誘発され筋収縮を生じる.遊離されたAChは拡散とChEによる分解で除去され筋活動が終わる.
AChの量はインパルスが繰り返し到達すると次第に減少し,ACh枯渇が生じる.それに伴いEPPの振幅も減少するが正常では筋線維鞘膜の発火レベルを超えているため伝導ブロックは生じない.さらに引き続く刺激は,神経終末へのCaの流入量を増加させAChの動員を誘起し,EPP振幅も回復する.これら一連の現象は2Hz以上の刺激頻度で見られる.
30Hz以上の刺激では強縮を起こす.強縮負荷後しばらくは遊離されるAChの量が増加し,EPPも増大する.これを反復刺激後増強という.反復刺激後増強は20〜30秒間持続し,その後3〜4分間はACh枯渇の程度が増強される.これを反復刺激後疲労という.同様の現象は最大随意収縮を負荷した後でも認められる.
測定原理
正常の神経筋伝達過程にはACh量子数,AchR数の二つの要素が関与している.この二つの要素に異常がある時にEPPの振幅が発火レベル以下に低下し,神経筋伝導障害を生ずる.この状態は低頻度(2〜5Hz)反復刺激により,ACh枯渇・動員のプロセスを反映する形で筋活動電位(M波)に現れる.
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)ではAchR数が減少しているため低頻度刺激でACh枯渇に一致してM波振幅漸減(waning)現象があらわれる.また反復刺激後増強・疲労も顕在化する.
Lambert-Eaton筋無力症(myasthenic syndrome:LEMS)では,シナプス前膜のACh遊離部数が減少するため放出されるAChが減少している.その結果低頻度刺激で誘発されるM波振幅が著しく小さく,低頻度刺激でみられる漸減現象はわずかに見られるか,あるいは目立たない.高頻度(10Hz以上)刺激でのACh動員に伴うM波振幅の増大,すなわち漸増(waxing)現象が著しく,20〜50Hzで特に著明である.また反復刺激後増強も明らかで,反復刺激後疲労も低頻度刺激のM波振幅低下が強調される.
測定方法
検査装置のセッティングは神経伝導検査法に準ずる.頻回刺激を加えることで,それに伴う動きのアーチファクト*)を小さくするため披検部を固定するか押さえる必要がある.
測定部位
尺骨神経-小指外転筋
正中神経-短母指外転筋
顔面神経-眼輪筋
副神経 -僧帽筋 など
検査手順
1Hzの刺激で検査前の状態をチェックする.
3Hz,(*5Hz),10Hz,20Hzの順で5秒間(*10回)刺激する.
*各刺激の間には若干の休息をおく.
50Hz,3秒間で強縮負荷を加え,直後に3Hzを加え反復刺激後増強を調べる.
強縮負荷2分後,3Hzを加え反復刺激後疲労を調べる.
1Hzの刺激で検査後の状態をチェックする.
判定
M波振幅(最初の刺激)
正常四肢筋では5〜20mV,正常顔面筋では0.5〜2mV.
MGでは正常ないし若干低下.
LEMSでは著しく低下する(正常の1/5程度になっていることが多い).
漸減現象
初発のM波振幅(M1)と5発目のもの(M5)から漸減率を求め-10%以内を正常とし,これを超える場合を異常と判定する.
漸減率(%)=((M5/M1)-1)*100 (M1に対するM5の割合が90%以下で異常)
漸減現象はMGだけでなくLEMSや急性脊髄前角炎の後遺症,ALS,脊髄空洞症などでも認められる.緊張性筋ジストロフィーでも漸減現象は認められるが,この場合には20〜50Hzの高頻度刺激で初発刺激のM波(M1)から最終刺激のM波(ML)まで順に減衰するパターンを呈する.これは筋線維鞘膜の異常によるものと考えられている.
漸増現象
10Hz以上の高頻度刺激で初発刺激のM波振幅(M1)と最終M波振幅(ML)から漸増率を求め+50%以下は正常である.
漸増率(%)=((ML/M1)-1)*100 (M1に対するMLの割合が150%以下で正常)
LEMSでは通常200%以上の増大を示す.しかもこの所見が全般性に見られることも特徴とされる.ボツリヌス中毒でもボツリヌス毒素によるACh遊離障害がありLEMS同様の所見が見られる.
反復刺激後増強
高頻度刺激による強縮直後の3Hz刺激で,MGでは強縮負荷前に見られた漸減現象は消失し,LEMSではM波振幅が著明に増大する.
反復刺激後疲労
強縮負荷2分後の3Hz刺激で負荷前より漸減率が大きくなっている場合,LEMSではM波振幅が小さくなっている場合反復刺激後疲労陽性と判定される.
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)
臨床像
本症は運動で増強し,休息や抗コリンエステラーゼ剤(抗ChE剤)で回復する筋力低下を特徴とする自己免疫疾患である.神経筋接合部のシナプス後膜におけるアセチルコリン受容体(AChR)が自己免疫性に破壊され,減少するために発現する神経筋伝導障害に起因する.症状としては眼瞼下垂,眼球運動障害・複視,四肢筋脱力,易疲労性,言語障害,嚥下障害,歩行障害,呼吸困難がみられ,症状に日内変動のみられる点が特異である.症状の分布により眼筋型と全身型に区分される.増生胸腺または胸腺腫を合併し,胸腺異常が本症の本態と関連していると推定されている.テンシロンテスト(抗ChE剤2〜10mg静注)は90〜95%の症例で陽性を示し,血清中の抗AchR抗体が60〜80%の患者で陽性である.
検査所見
補助診断法として疲労検査:HMテストが有用である.HMテストの陽性率は,各筋ごとで三角筋82%,小指外転筋50%,眼輪筋62.5%,前腕屈筋群52%,MG全体では95%である.陽性率は末梢筋よりも近位筋優位の傾向にある.眼筋型では四肢筋において漸減現象はみられない.
Lambert-Eaton筋無力症(myasthenic syndrome:LEMS)
臨床像
四肢近位筋の易疲労性と脱力を主症状とする.中年以降の男性に多く,障害は上肢より下肢に強く,脳神経領域はまれである.反復動作で筋力は次第に強くなり,その後再び低下する.深部腱反射低下を伴うことが多い.肺小細胞癌が高頻度(50〜70%)に合併する.本症と診断したときは肺癌の検索を行う.本症は神経終末より分泌されるアセチルコリン量子数の減少があり,その原因として神経終末のCaチャンネルを阻害する自己抗体の関与が考えられている.
検査所見
M波振幅は極めて低い.低頻度刺激では漸減(waning)現象を認める.10Hz以上の高頻度刺激では2倍〜6倍の漸増(waxing)現象を認める.
参考文献
筋電図判読テキスト
神経内科ハンドブック 第3版
(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 神経機能検査室)