奈臨技生理機能検査部門では「きれいにとれる」シリーズとして、生理機能検査の各検査について、検査の原理や臨床的意義、わかりやすい結果を正確に臨床側に報告するための検査のコツ、について研修しています。
その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。
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疾患編
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動脈硬化とPWV

動脈硬化とは日本語では単に動脈が硬いと書くが正確にはatherosclerosisである。
内膜におこる粥腫形成(atherosis)とともに中膜に起こる動脈壁硬化(sclerosis)が存在する。

動脈硬化はまず内膜の機能障害が起こり、それに引き続いて内膜および中膜に変化を生ずる。動脈硬化は虚血性心疾患や脳血管障害の原因として注目されており、脈波伝播速度(PWV)は動脈硬化の指標として用いられている。


動脈の機能


 動脈が心収縮期に拡張し、心拡張期には元に戻ろうとする作用をWindkessel効果といい、血管が血液を末梢に送る要因となる。加齢によりこのWindkessel効果が低下すると収縮期血圧は上昇、拡張期血圧は低下し、脈圧は増大する。こうなると左室後負荷による左室肥大、末梢側には脈圧の増大による内皮機能障害を介する動脈硬化を引き起こす。


PWVの測定方法

baPWV法(brachial-ankle法)
四肢(両上腕、両足首)に巻いた血圧測定カフの容積脈波からPWVを測定する方法で簡便である。
大動脈弁口〜上腕(Lb)、大動脈弁口〜足首(La)の距離は身長から求める推定式で求め、求めた(La−Lb)を上腕と足首の脈波立ち上がりの潜時差(デルタt)で除して求める。


PWV(m/s)=La−Lb(上腕−足首間の距離)/ デルタt(時間差)

baPWV法は四肢血圧も測定するので、足首、上腕血圧比(ankle-brachial pressure index:ABPIないしABI)も同時に計測する。

ABI=足首血圧/高い方の上腕血圧



PWVに影響する因子
年齢・・・年齢が上がるほどPWV値は高値になる。
収縮期血圧・・・血圧の上昇により血管壁張力が増し、血管としての弾力性はなくなりPWVは高値になる。
性差・・・男性>女性であるが、閉経後には男女差はなくなる。


測定部位
大動脈などの大きな動脈に比べ末梢動脈ほど血管径に比べ血管壁が相対的に厚く、PWVは早くなる。また末梢動脈は弾性線維が少なく伸展性が乏しい。

測定環境
測定前は5分間の安静、仰位とし、室温は23〜25℃の快適な状態で、これらを一定に保つ。


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評価方法
PWVは動脈硬化度と血圧の両者を併せて反映する総合的な血管壁硬化の指標である。動脈硬化の進展とともにPWVは高値となる。
閉塞性動脈硬化症(ASO)は末梢動脈硬化が極めて進んだ状態で、血管の狭窄が高度になると、脈波が伝播されにくくなり、PWVは偽低値となる。特にbaPWV法はその影響を受けやすく、ABIが0.95以下になるとPWVは低下する。
大動脈瘤があると内径の拡大、あるいは壁性状の変化によりPWVが低下する場合がある。


臨床的意義
糖尿病、糖尿病合併症、高血圧症、心筋梗塞、脳血管障害、末梢血管疾患、腎機能障害にてPWVが高値となる。また動脈の石灰化、頚動脈内中膜壁厚(IMT)を目的とした検査との相関性を認める。PWVは動脈硬化の早期発見、重症度評価、治療モニターを目的とし、今後積極的に導入が進められる検査である。

参考文献
小路 裕:脈波速度(PWV).臨床検査vol48,pp1437−1446,2004
・コーリンメディカルテクノロジー株式会社「form PWV/ABI」カタログ

(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 神経機能検査室)

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