奈臨技生理機能検査部門では「脳波の手習い」シリーズとして、脳波検査について、正常脳波や異常脳波の波形、睡眠脳波などについても研修しています。 その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。 |
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脳波の手習い
「てんかん様脳波の境界領域」
【てんかん性異常波と非てんかん性異常波の相違点】
◆てんかん性異常波
1)棘波の波形は左右非対称であり、鋭い上行相と比較的緩徐な下行相からなる。
2)陰性または陽性の徐波が後続する。
3)2相性または3相性の波形を呈する。
4)棘波あるいは鋭波の周波数は、背景律動の周波数と異なる。
5)棘波あるいは鋭波の前後の背景波には、しばしば不規則徐波が出現する。
◆非てんかん性異常波
1)波形は左右対称である。
2)徐波が後続しない。
3)波形は単相性である。
4)棘波の周波数は背景脳波の周波数と同じである。
5)正常な背景脳波から出現する。
【境界領域の脳波】
1. Benign epileptiform transients of sleep (BETS)
・小鋭棘波 small sharp spikes (SSS)ともいう。
・主として成人に見られる。
・覚醒から睡眠への最初の移行期に最も多く見られ、睡眠stage1、2で見られる。
・波形は単相性か2相性であるが、多相性のものも存在する。
・低振幅(50μv以下)で、持続時間も短い(50msec以下)。
・直後に低振幅の徐波を伴うこともある。
・出現分布は、前側頭部、中側頭部、前頭部優位であるが比較的広範囲に、左右独立して両側性にあるいは両側同期して出現する。
・一局所に局在することはない。
<BETSとてんかん性棘波の鑑別点>
てんかん性棘波の特徴
1)一局所に反復して出現することがある。
2)多くは鋭波や局在性の徐波が混在している。
3)覚醒時に認めることもある。
2. 14&6Hz positive spikes (14&6Hz陽性棘波)
・14Hzまたは6Hzでtrainをなして出現する陽性棘波で、主として若年成人に認められる。
・持続は1秒前後のことが多い。
・主に陽性棘波からなるが、時に陽性棘波に低振幅の陰性徐波が後続することもある。
・後頭部、後側頭部優位に出現し、両側性に見られるが、左右は別々に独立して出現する。
・主に軽睡眠期に出現するが、覚醒時に認めることもある。
3. 6Hz棘・徐波複合(phantomファントム)
・6Hz(4〜7Hz)の棘徐波複合の短い群発からなるが、てんかん性棘徐波と比べ棘波成分は低振幅で鋭い形状を示し、しばしば陽性成分が顕著となる。
・全般性に出現するが、前頭部優位や後頭部優位を示すこともある。
・主に覚醒や入眠期に出現し、過呼吸や光刺激によって賦活されることがある。
・前頭部優位の場合はてんかんとの関連も指摘されており、一方、後頭部優位の場合は病的意義は少ないと考えられている。
(参考)
Hughesは6Hz sp-wを1)WHAM型、2)FOLD型の2型に分類
1)WHAM型:てんかんとの関係が認められる。
W : waking state(覚醒期)
H : high amplitude(高振幅)
A : anterior(前頭部)に最大振幅がある。
M : male(男性)に見られる。
2)FOLD型:てんかんとの関係があまりない。
F : female(女性)に見られる。
O : occipital(後頭部)に最大振幅がある。
L : low amplitude(低振幅)
D : drowsy state(うとうと状態)
4. wicket spikes ウイケット棘波
・30歳以上の成人で見られる。
・前側頭部〜中側頭部に出現する比較的高振幅の律動性6〜11Hzのアーチ型の波形(ミュー律動)で、単発で起きることも連続して起きることもある。
・両側性に出現するが左右は別々に出現する。
・覚醒期や睡眠stage1〜2に出現する。
5. Burst of rhythmic temporal theta (BORTT)
・主として成人に出現するが50歳代に多い。
・側頭部に振幅が次第に大きくなっていく比較的高振幅のθ波が群発するもの。
・左側頭葉に出現することが多い。
・覚醒期や睡眠stage1〜2に出現する。
・群発の持続時間は1秒前後のことが多い。
・MaynardらはBORTTはwicket spikesの異常度の低いものかもしれないと推論している。
6. Rhythmic mid-temporal discharges (RMTD) ねむけ時律動性側頭部θ群発
別名:psychomotor variant (精神運動発作異型)
・主に思春期から若年成人に見られる。
・傾眠時や軽睡眠期に出現することが多い。
・一側ないし両側の側頭中部優位に5秒〜1分程度持続する4〜7Hzのθ群発で、しばしば約12Hzの陰性成分がノッチ状に混入する。
7. Subclinical rhythmic electrographic discharges of adults (SREDA)
・中年以降の高齢者に認められる。
・鋭波様波形が繰り返す内に次第に早い周波数の波が混入してきて、その後4〜7Hzの律動的な正弦波様パターンを呈する。
・頭頂部や後側頭部優位に出現するとし、両側同期性に出現することも一側性に出現することもある。
・覚醒時、睡眠時ともに出現し、持続は1分前後のことが多い。
・過呼吸で誘発されることが多い。
・てんかんの発作時脳波に類似するが、てんかんとは関係がなく、むしろ血管障害との関係が疑われている。
8. Mitten pattern
・ほとんど成人に限って認められる。
・波形は遅い棘・徐波複合に似ている。
・棘波成分は、前頭優位に出現する遅い周波数の紡錘波の最後の波によって構成されており、先端は丸く、鋭くはない。ミトン手袋の形に似る。
・睡眠時に、一般に左右同期性、前頭部優位に出現する。
【異常脳波と誤りやすい正常脳波】
1. Positive occipital sharp transient of sleep (POSTS) 睡眠時後頭部陽性鋭トランジェント
・主として青年期以降の成人に認められる。
・後頭部に反復して出現する陽性鋭波
・睡眠stage1〜2で見られる。
2. 後頭三角波 (posterior triangular waves)
・3〜4Hzの三角形をした徐波で、単発性に、一側あるいは両側後頭部、側頭部に多くは左右非対称性に出現する。
・青少年期ではしばしばみられる。
・開眼によって減衰され、閉眼によって賦活されることが多い。
・この徐波が鋭いα波に続いて出現すると、鋭・徐波複合に似た形を示すことがあり、てんかん性異常波と誤りやすい。
3. 入眠期過同期性θ波 hypnagogic hypersynchronous θ
・小児の入眠期では前頭部、中心部優位ではあるが、ほぼ全誘導部位にわたって高電位の徐波群発が出現することがある。
・生後4ヶ月頃から出現するようになり、1〜3歳頃で最も顕著となって、振幅が150〜200μvに達することも多い。
・持続も4秒程の短いものから10秒以上の長いものまである。
・11歳以後には減少し、次第に成人の入眠期に近づく。
〔入眠期過同期性θ波と紛らわしい波形〕
Pseudo petit mal patternあるいはhypnagogic paroxysmal sp-w activity (hypnagogic PSW)
・小児の異常波であるが、てんかん性異常波との鑑別が必要な波形
・熱性けいれんの既往をもつ小児の1/4ほどに認められ、入眠期に出現する。
・正常小児は入眠期に突発性の徐波群発を示すが、hypnagogic PSWは、この徐波群発に棘波成分が混入したものと考えられる。
4. 小児の尖鋭な頭蓋頂鋭波
小児でよく見られる尖鋭な頭蓋頂鋭波(hump , vertex sharp wave)とてんかん性の鋭波(特に中心部や頭頂部に出現する鋭波)との判別が難しい。
*頭蓋頂鋭波とてんかん性の鋭波の判別にあたって留意すべき点
1)周波数が徐波帯域にある。
2)波の下降部分に陽性への切れ込みを伴うことが多い。
3)α律動が消えて平坦化した脳波になった後に現れたり、周辺の背景脳波に紡錘波(spindle)がみられたりする。
4)両側性に同期して出現し、左右の振幅がほぼ同じ大きさであることが多い。
5)両側中心部、頭頂部を中心に出現する。
参考文献
臨床神経生理学 Vol.33 No.6 2005 日本臨床神経生理学会H17.12.15(木)
(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 神経機能検査室)