奈臨技生理機能検査部門では「脳波の手習い」シリーズとして、脳波検査について、正常脳波や異常脳波の波形、睡眠脳波などについても研修しています。
その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。
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脳波の手習い
「誤りやすい異常脳波」



1.後頭部三角波(posterior triangular wave)

 3〜4Hzで単発性,一側あるいは両側の後頭部に出現する.鋭いα波に続いて出現すると鋭・徐波複合sharp-and-wave complexに似た波形を示すことがある.正常成人にはほとんど認めないが,学童期から青年期にはしばしば認められる.

20歳、女性、統合失調症
覚醒閉眼時脳波、両側後頭部(O1-A1,O2-A2)、頭頂部(P3-A1,P4-A2)に、高電位の、三角形をした徐波の単発を見る。



2.入眠期過同期性θ波(hypnagogic hypersynchronous )

 4〜5Hzの高振幅θ波が両側前頭部,中心部優位で全誘導にわたって数秒間の持続で突発性に出現する.生後4ヶ月ごろより出現し,1〜3歳で最も顕著になる.11歳以後には減少し次第に成人の入眠期パターンに近くなる.高振幅θ波の中に棘・徐波複合spike-and-wave complexが形成されている場合もあり注意を要する.また熱性けいれんにみられるpseudo petit mal dischargeにも酷似している.

5歳、女性、熱性けいれん
入眠期の脳波、高電位のθ波の群発が、全誘導部位にわたって出現。両側前頭極(Fp1-A1,Fp2-A2)、中心部(C3-A1,C4-A2)のθ波は、振幅が大きすぎて振り切れている。
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7歳、男性、全身強直間代発作
入眠期から軽睡眠初期にかけての脳波。高電位のθ波が、ほぼ全誘導部位にわたって、3秒ほどの持続で突発性に出現。これらの徐波には、左頭頂部(P3-A1)や両側後頭部(O1-A1,O2-A2)で陰性あるいは陽性の鋭い波を伴っているものがあり、とくに左頭頂部のそれは振幅も高く、形も鋭い(●)。
不規則で高電位の徐波の群発が、両側頭頂部(L.P.,R.P)優位であるが広汎性に出現している。徐波群のなかに棘波が散在性に混入しているのが特徴的である(Boshes,L.D and Gibbs,F.A より引用)



3.頭蓋頂鋭波(vertex sharp wave)

 軽睡眠初期に頭蓋頂部に出現する,持続100〜300ms,振幅100uV以上,陰性相で振幅の大きい2あるいは3相性の波.てんかん性の鋭波との鑑別に注意が必要.特に小児では頭蓋頂鋭波が尖鋭で鋭波との鑑別は必ずしも容易ではない.

頭蓋頂鋭波の特徴
1)周波数が徐波帯域にある
2)波の下降部に陽性の切れ込みを伴うことが多い
3)α波が消えて平坦化した脳波の後に出現し,背景脳波に紡錘波が見られたりする
4)両側性に同期して出現し,左右の振幅がほぼ同じ大きさであることが多い
5)両側中心部,頭頂部を中心に出現する




4.低振幅脳波(low voltage EEG)

波の出現をほとんど認めず,不規則に出現するθ波,β波の振幅は20uV以下と低く,全体的に平坦に近い印象を与える脳波.病的な場合では頭部外傷後遺症の際などに見られるが,正常でも数%に見られる.また緊張の強いときや眠気があるとこれとよく似たパターンが見られることがある.

43歳、女性、頭部外傷後遺症
覚醒閉眼時脳波。α波の出現はほとんど見られず、不規則に出現するβ波やθ波の振幅も低く、全体的に平坦な印象を与える。




5.電極装着不良によるアーチファクト

立ち上がりや基線への戻りが急で,近接の導出にも波及が見られない.棘波に似た波形を示すことがある.また耳朶電極に起こった場合では半球性に陽性棘波様のアーチファクトとして出現する.側頭葉に焦点を有する症例では耳朶の活性化が認められこれとも鑑別を要する.

棘波の特徴(アーチファクトとの鑑別点)
1)ひとつの導出のみに限局して出現するのはまれであり,近隣の導出にも波及して,より振幅の小さい波が同期することが多い
2)波の陰性への立ち上がりの前に陽性の切れ込みを伴うことが多い
3)同じ導出に同じ形をした波の再現を見ることが多い

38歳、男性、複雑部分発作
陽性鋭波(●)に一致して、両側耳朶の双極導出記録(A1-A2)に陰性の振れ(▲)が認められる。このことから、見かけの陽性鋭波が生じたことがわかる。




6.心電図によるアーチファクト

 棘波に似た波形を示す.耳朶電極に混入した場合は半球性に棘波様のアーチファクトとして出現する.心電図を同時記録すれば鑑別可能である.

30歳、男性、全身性強直間代発作
左後頭部(O1-A1)に限局して、棘波様の波が認められる(●)。この波は同時に記録した心電図(ECG)と一致している。




7.筋電図によるアーチファクト

 咳,緊張が強い,口を噛んだり,嚥下運動,枕の高さが合わない場合などに見られる.棘波状の波形を呈するが,棘波より持続が短く,大小不揃いの波が群をなして律動的に出現し,緊張や動きがなくなると消失する.

72歳、男性、うつ病
両側後頭部(O1-A1,O2-A2)に限局して、棘波様の波が律動的に連続して出現。大小不揃いの波が群をなして律動的に出現している。




8.瞬きによるアーチファクト

眼球の持つ電位が眼球運動のたびに前頭部の誘導より記録される.
前頭部間欠性徐波多形成デルタ活動(polymorphous delta activityPDAと酷似し両者の判別に迷うものもある

瞬きによるアーチファクトの特徴(鑑別点)
1)瞬きや眼瞼振戦に一致して出現する
2)波形が不規則
3)前頭部(前頭極)でその振幅が著しく大きく,他の部位では小さい

*眼瞼下に電極を装着し,眼球運動を同時記録しておくと判別の参考になる

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24歳、女性、統合失調症
覚醒時脳波、両側前頭極(Fp1-A1,Fp2-A2)に、筋電図を混入したδ波帯域の波の群発が出現。これは、瞬目に一致して認められた。
18歳、男性、第3脳室腫瘍
両側前頭極(Fp1-A1,Fp2-A2)優位に。律動的なδ波の群発が出現。このδ波群発は、間欠的に出現することが特徴的であった。
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9.振戦によるアーチファクト

 振戦によるリード線の揺れに起因する.振戦に一致して律動的に混入する.律動性徐波と紛らわしい場合がある.

49歳、女性、パーキンソン病
覚醒閉眼時脳波、両側後頭部(O1-A1,O2-A2)に限局して、高電位のθ波帯域の波が律動的に出現。この律動波は振戦に一致して認められた。

参考文献

市川忠彦 誤りやすい異常脳波,医学書院,1989

H18.12.8

(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 神経機能検査室)

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