奈臨技生理機能検査部門では「脳波の手習い」シリーズとして、脳波検査について、正常脳波や異常脳波の波形、睡眠脳波などについても研修しています。
その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。
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脳波の手習い 
〜睡眠脳波について〜    
         

<なぜ睡眠脳波が必要なのか>
・ 脳波は睡眠によって波形が変わり、睡眠の深さに応じて特徴的な脳波パターンを示すので、その波形から眠りの深さを知ることができる。
・ 睡眠中の脳波記録はてんかんの診断に有用であり、欠神発作以外のてんかん発作波の出現率が高くなるといわれている。特に複雑部分発作complex partial seizureでは、側頭葉でのてんかん発作波が睡眠により誘発されやすくなる。よって、てんかんが疑われる症例や、覚醒時脳波でてんかん発作波がみられない症例では、睡眠時の脳波記録が必要となる。

a) StageW:覚醒期(図1)
・ 脳波はα波と、低振幅で他の睡眠段階よりも周波数が速い種々の周波数の波が混在したパターンを示す。
・ かなり高振幅の持続性筋電図を伴い、急速眼球運動や瞬目も出現する。


図1

b) Stage I:入眠期と軽睡眠初期
・ 覚醒期のα波の振幅が低下し、連続度が次第に悪くなり、とぎれとぎれにしか現れなくなり、ついには消失して低振幅パターンになる。
・ また、低振幅の4〜6Hzのθ波とβ波が不規則に出現して、脳波は全体としてさざなみを打っているような波形となる(漣波期)。(図2)


図2

・ Stage I の後期からStage II の初期にかけては、瘤波(hump, vertex sharp wave)が出現する(瘤波期)。(図3)瘤波は2〜3相の高振幅の波が、両側中心・頭頂部優位に著明に現れる。


図3

・ 小児では、この時期に全般性に高振幅徐波が持続性あるいは突発性に出現する。これを入眠期過同期性θ波(hypnagogic hypersynchronous θ)という。(図4)


図4

・ 覚醒期からStage I の移行期には数秒間続く遅い眼球運動(slow eye movements)が出現するが、急速眼球運動は出現しない。

c) Stage II :軽睡眠期
・ 瘤波のみが現れる時期に続いて、14Hz前後の紡錘波(spindle)が出現する。(図5)


図5-1

・ 瘤波と紡錘波が混合して現れ(瘤・錘混合期)、さらに睡眠が深くなると瘤波が消失して、紡錘波だけが中心・頭頂部優位に出現する(紡錘波期)。


図5-2

・ K-複合(K-complex)の出現。K-複合は、瘤波と紡錘波が結合したような形でみられ、音などの感覚刺激で誘発されたり、自発性に出現することもある。(図6)


図6

・ 紡錘波も瘤波も成人のうちでも若年者に著明で、長じるにしたがって低振幅となり、60歳以上の高齢者では20%前後にしか見られなくなる。
・ Stage I 〜Stage II にかけて、両側後頭部に左右同期性に4〜6Hzの陽性鋭波が律動性に出現することがある(POSTS : positive occipital sharp trangent of sleep)。(図7)


図7


d) Stage III:中等度睡眠期(図8)
・ 2Hz以下、75μv以上の徐波(丘波 hill wave)が記録貢の20%以上、50%以下を占める。
・ 紡錘波は出現することもしないこともある。この時期には、紡錘波は周波数の遅いものが多くなり、12Hz前後の波が現れることもある。


図8


e) Stage IV:深睡眠期(図9)
・ 丘波が記録貢の50%以上を占める。
・ 紡錘波は出現することもあるが、睡眠深度がさらに深まると消失して、大徐波(丘波)のみとなる。
* Stage IIIとStage IV を合わせて徐波睡眠と呼ぶ。


図9


f) Stage REM:レム睡眠期(図10)


図10

・ Stage I に似た比較的低振幅の各周波数が混合した脳波と、主に水平方向の急速眼球運動(rapid eye movement:REM)がみられる。
・ 抗重力筋の筋緊張低下、心拍数や呼吸数の増加や変動、自律神経機能の変動などがあり、また、夢を見ていることが多い。
・ 夜間睡眠では、入眠後90分程度経過するとREM睡眠になり、20〜30分程度持続して出現する
* 健康成人の夜間睡眠は、全体で90〜120分の周期で一晩に3〜5回繰り返されるが、夜間前半にはnon-REM睡眠相が多く、後半(明け方近く)にはREM睡眠相が多くなる傾向がみられる。
* 一般にStage IV は第1回目の周期に最も著明に出現し、睡眠の前半期に多く、後半期すなわち明け方に近づくにつれ少なくなる。これに対して、REM段階は、周期の回数を重ねるにつれて持続時間が長くなる。

<小児の睡眠脳波>

1. 新生児期の睡眠脳波
新生児とは満期産(40週以上)だけでなく、それよりも早期の出産児を含んでいる。よって、新生児の脳波を観察するときにはまず受胎後期間を考慮する必要がある。
新生児期の脳波は大きく、覚醒、動睡眠、静睡眠に分けられるが、覚醒時脳波と動睡眠の脳波は区別しにくいことが多い。

1)動睡眠(active sleep)(図11)
・ 成人のREM睡眠に相当する。
・ 不規則呼吸、体動、眼球運動を認め、筋緊張を認めない。
・ 脳波は低振幅不規則パターン、混合パターン(高振幅徐波と低振幅の種々の周波数成分の混合)、まれに高振幅徐波が出現する。


図11-1(動睡眠)

図11-2(動睡眠:1ページ20秒表示)


2) 静睡眠(quiet sleep)(図12)
・ 成人のnon-REM睡眠に相当する。
・ 規則的呼吸、筋緊張がみられ、体動、眼球運動を認めない。
・ 脳波は特に、交代性脳波(trace alternant:トラセアルテルナン)が特徴的である。
* 交代性脳波とは、1〜3Hzの高振幅徐波が全般性、不規則性に4〜5秒間群発する相と、さまざまな周波数の低振幅脳波相が4〜5秒間群発する相が交互にみられる。
* 交代性脳波は生後1ヶ月頃までは出現するが、それ以後はみられなくなる。


図12-1(交代性脳波)

図12-2(交代性脳波:1ページ20秒表示)


3)覚醒(awake)
・ 脳波は全般性、左右非対称性、不規則性、低振幅の3〜7Hzの徐波がみられる。
* 新生児の睡眠周期は45〜60分くらいといわれている。

2. 乳幼小児期の睡眠脳波
・ 生後2ヶ月頃からはnon-REM睡眠期に12〜14Hzの紡錘波が現れ、入眠期とREM段階には4〜6Hzの中等度振幅の律動性θ波が出現するようになり、1歳頃以後には睡眠脳波は次第に成人に近づく。(図13)


図13-1(spindleの左右同期・非同期)

図13-2(spindle:左右同期)

図13-3(extreme spindle:極度紡錘波、prolonged spindle:延長紡錘波)

図13-4(トリクロ使用によるβ重畳)

・ 紡錘波は乳児期では左右同期しないことも多いが、2歳頃には左右同期性に現れる。
・ 生後5〜6ヶ月頃から瘤波が出現し、成人にみられるものに比べると、尖鋭な波形を示す。幼小児では、瘤波は中心・頭頂部だけではなく、前頭部や側頭部、後頭部にも出現する。(図14)
・ 幼小児では、睡眠から覚醒する時期にも成人とは異なった反応を示し、2ヶ月以後は半数以上が完全な覚醒時波形に移行する前に、2〜4Hzの持続性の広汎性高振幅徐波を示す。


図14-1(尖鋭なhump)

図14-1(humpに混ざって、F3.T3にspike)

参考文献
脳波検査依頼の手引き 医事出版社
臨床脳波学 第4版 医学書院
臨床検査技術学 7 臨床生理学 第2版 医学書院

H17.4.15(金)

(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 神経機能検査室)

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