奈臨技生理機能検査部門では「脳波の手習い」シリーズとして、脳波検査について、正常脳波や異常脳波の波形、睡眠脳波などについても研修しています。
その中のほんの一部ですが、当日に使用した資料を掲載させていただきます。
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脳波の手習い

「脳波記録時のツボ」
ー脳波を記録する時の考え方と進め方のポイントー

1.脳波検査依頼の目的は何か?

依頼者は何(どんな情報)を脳波検査より得たいのか?

・脳波は機能的な検査であり,脳障害の原因や部位的な診断は難しい.
そのときにおける機能的な脳の活動状態がわかるだけである.

・ 脳梗塞や脳出血などの脳血管性障害,脳腫瘍などの器質的な障害に関しての部位的診断は画像検査が中心となる.これらにおける脳波検査は,画像情報の補足的なものとしてそのときの機能的な状態を知ることと“てんかん”の除外診断がおもな目的となる.つまり,いわゆる「念のため」的なものも多い.よほど脳波に興味があるか研究対象としている医師以外では,画像検査と脳波をこまかく比較検討するようなことも少ないと思われる.
画像検査ではっきりした所見がある場合は,脳波検査まで依頼しないことも多く,画像検査であまり所見がない場合や臨床症状にあわないときなどに脳波の依頼が出るといえる.

・このような場合は,器質的なものに対する脳波所見(主に徐波や左右差)はあって普通であり,画像所見と著しく違ったものでない限りさらっと検査を進めることで十分である.予想に反した脳波像やまったく違った所見などがあった場合に,脳波検査の本当の出番であると考え検査を進め質の高い検査を行うことにより,臨床側からの信頼も高まるといえる.

・予想と違った所見(一般的な異常所見)の場合,なぜかを十分考えて検査を進める必要がある.

まず異常波(徐波や棘波)の出現部位や出現パターンから,異常波の局在部位の範囲と量的な所見をはっきりさせ(モンタージュの変更など),さらに刺激に対する反応性なども観察する.
こういう場合に,機能的な異常の出現部位が必ずしも画像所見と一致しないこともある.
また,脳波でしかわからないものも色々あると知っておく必要がある.

脳波上の特徴的な所見,たとえば,認知症と思っていたら非痙攣性てんかん重積(NCSE)であった,てんかんと思っていたらヒステリーであった,などの脳波所見が出た場合は脳波を記録するだけで十分であり,種々の賦活の必要性もあまり高くない.

逆に,あまり必要がないと思っていた賦活操作が重要なポイントになることもある.検査中に変わったことがあれば必ず対応し,次にどうするか考えながら検査を進める.

2.大きく分けて子供と大人では対象となる疾患が違う.

小児:ほとんどはてんかんの診断や経過観察的な依頼,またはてんかんの除外診断である.
成人:意識障害,脳の器質的な障害,炎症性の疾患,てんかん など
→依頼の目的がいろいろあり,対象となる疾患の種類も多く不明な場合もある.

・初検査のときはできるだけ多くの情報を得るようにする.
__脳波検査を受けることになった直接的な理由(けいれんがあった,頭痛がある,など)
__発作があったならば回数や時間,薬の服薬状況や最近の体調など
__今現在の状況(通常の手順で十分に検査ができるか?短時間しか検査できない?)
__薬で寝かした患者さんの場合次の行動も知っておく.(覚醒させていいのか)

<てんかん,てんかんに関連するもの>

睡眠を記録することは必須で最優先事項(他の賦活は特殊な状況以外では後でも良い)

特殊な状況:
欠神発作の過呼吸,光過敏性てんかんの光刺激などだが,これらの賦活は睡眠を記録してからでも問題はない.

覚醒時と自然睡眠(入眠期と軽睡眠期が重要)と両者が記録できるのが良い

一般的に覚醒しか記録できない脳波は検査の価値が激減するといえるが,すべての症例で睡眠記録を最優先にするものではない(前述例).
また,薬剤による睡眠は深い睡眠レベルになりやすく,浅い睡眠期が記録できないことも多い.
薬剤を用いた乳幼児の検査では,可能なかぎり覚醒に近い状態を記録するように心がける.
 → 十分睡眠を記録してから少しずつ起こしてゆく.(肋間をコリコリ刺激するのが良い)
あまり睡眠が深いようであれば,ときどき覚醒刺激して少し浅くする

・睡眠脳波の何を評価するのか?
睡眠期に出現するspikeやsp-wの出現部位,頻度,ひろがり,睡眠レベルでの違いなど
各睡眠期における徐波slow waveの量,左右差
睡眠に特徴的な波形(瘤波hump・紡錘波spindle,k波複合k-complex)の出現様式や左右差
刺激に対する反応性などを観察する.

→ 前半は一応の手順で記録観察し,後半はいろいろな刺激を入れて反応を見る.
各検査室で決めている手順で(M-P→B-P横→B-P縦など)記録する
後半は音刺激(Clapping-hands),呼名,光刺激,体をゆする,くすぐるなど

部分発作のSpikeやsp-wを認めたら,焦点focusがどこかを確認する.
→ モンタージュを変更する(B-PやAV誘導など)

全般性発作であれば,大抵は振幅が振り切れていることが多いのでゲインを下げて記録してみる.
→ 最大振幅の部位,位相のずれ,出現の早い部位がないかを見る.

小児の脳波は高振幅なことが多い 

→振り切れたままで漫然と記録するのではなく,記録ゲインを変更して最大振幅の部位をみつける,左右差の有無を確認する.通常のゲインで観察すべきものとゲインを変更しなければわからないものを区別してそれぞれに対応した記録を行う.(振り切れた部分は見えない)

3.脳波を検査するときの患者さんの状態により検査の進め方は大きく違ってくる.

 通常の状態:普通の手順で検査を進めることができる.

 意識障害 :どの程度の反応があるのか?こちらの指示に対応可能か?検査中安静にできるのか?
       不随意運動は?検査時間は十分とれるか?

 認知症  :どういう状態か?(普通に対応可能か,まったく目を離せないのかなど)

 乳幼児  :自然睡眠か薬剤睡眠か?薬の服薬時間は?いつねむりそうか?
       発達遅延はあるのか?じっとしていられるか?

通常の手順で検査を進められないときは,なにを必要としているかを十分考えるが,当然依頼側に確認することが一番重要である.(依頼側と実施側で違ったことを考えているかもしれない)

*優先順位をつけて検査を進める.
単極誘導M-P,双極誘導B-P,AV誘導,開閉眼,光刺激,過呼吸,睡眠
これらのなかからどれが可能で必要かを選択する.(時間的なものも考慮する)
検査を始める前に,ある程度考えておくと困ることも少なくなる.

特に,デジタル脳波計でない場合は,検査中にすべてのことを考えて臨機応変に対処しなければならない.以前は,経験の違いが検査の結果に非常に影響するものであったが,現在のデジタルの脳波計は後からモンタージュやフィルターや表示ゲインを変更できるので,技師の経験値的なもののかなりの部分をカバーできるようになっている.

H18.1.19(天理よろづ相談所病院 臨床病理部 神経機能検査室)

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